だいふくちゃん通信

2022/02/04

先日、菅直人元首相が、Twitterに日本維新の会と橋本徹氏について「ヒトラーを思い起こす」と投稿したことが話題となりました。

繰り返してはならない歴史として、2022年の今もナチ・ドイツの政府が参照され続けています。

それでは、そんなヒトラー政権が、実は少数派政権だったのはご存知ですか?

国会の過半数を取れなかったのにもかかわらず、緊急事態条項をしたたかに利用することで、ナチ党は力をつけていきました。

ヒトラーがどうやって権力を集中させていったのか、ドイツ現代史・ジェノサイド研究の専門家、石田勇治先生と一緒に学んでいく講義を紹介します。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 石田勇治

大統領緊急令が法律と化した時代

緊急事態条項とは、非常事態に国家の存立を守るために、国家権力が人権保障と権力分立を一時停止して緊急措置を取ることを許可する条項のことを指します。

ヒトラー政権が台頭したワイマール共和国(1918/19〜33)では、緊急事態条項により、大統領が大統領緊急令を発令できると定められていました。

このワイマール共和国では、ヒトラー政権が成立する以前から、体制が不安定な共和国初期に、防衛・治安維持のため、この緊急事態条項が許可した大統領緊急令が多用されていました。

そして、ヒトラーが力を持ち始める共和国末期には、大統領緊急令が法律代わりに頻繁に発せられるようになります。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 石田勇治

共和国末期の大統領は、元軍人で帝政主義者のヒンデンブルクです。ヒンデンブルクは大統領緊急令を法律のように用いることで、議会制民主主義を形骸化・有名無実化していきました。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 石田勇治

形骸化していた国会で、政府と議会を批判する抗議政党であったナチ党と共産党が、次第に力をつけていきます。

1933年1月、保守派のヒンデンブルクはヒトラーを首相に任命し、大統領緊急令をヒトラー政府のために使用することを約束しました。この時点で、ナチ党の国会議席占有率は33.1%しかなく、国家人民党と合わせた連立政権全体でも41.9%と、与党で過半数が取れていない状態(つまり、少数派政権)でした。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 石田勇治

しかし、大統領緊急令という強力な武器を手に入れたことで、国会の議席数が少ないにもかかわらず、ヒトラーは実質的に国を支配できるほどの権力を有することになったのです。

緊急事態条項の制定には丁寧な議論が必要

このままヒトラーは大統領緊急令を使って野党を弾圧し、ついには政府が実質的に全権を握ることができる授権法を制定することになります。(詳しい流れも動画で解説されているので、ぜひご覧ください)

ここまで読むと、緊急事態条項が全ての諸悪の根源であるように思えるかもしれません。

しかし、石田先生は、事態はそれほど単純ではないと言います。

じっさい、ワイマール共和国では、ヒトラーが台頭する前から大統領緊急令は使用されていましたが、すぐさま独裁体制に移行することはありませんでした。

また、現在のドイツでも、まだ発令はされていないものの、「合同委員会」を主体とした緊急事態条項が存在していると言います。つまり、緊急事態条項において、権力の中心は必ずしも大統領のような力のあるひとりの政治家である必要はないのです。

石田先生は、緊急事態条項にさまざまなバリエーションがあることを理解し、それぞれのリスクを考えながら、丁寧に議論していくことを私たちに提案しています。(もちろん、緊急事態条項を何らかのかたちで制定すべきだという話でもありません)

冒頭の例で紹介したように、ナチ・ドイツは私たちの現在の政治状況とも無関係なものではありません。

講義動画を視聴して、皆さんも人類史上最悪の歴史を生み出したと言われるナチ・ドイツの悲劇を繰り解さないためには何ができるか、考えてみてください。

今回紹介した講義:不安の時代(朝日講座「知の調和―世界をみつめる 未来を創る」2020年度講義)第9回 緊急事態条項とナチ独裁―民主憲法はなぜ死文化したか一 石田 勇治先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2022/01/28

みなさんは哲学者と聞いて誰を思い浮かべますか?

デカルト?カント?ヘーゲル?ニーチェ?サルトル?フーコー?

色々な名前が挙げられますが、どれも西洋の人物です。一番に日本の哲学者を思い浮かべた人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

日本の哲学だけでなく、中国思想やインド思想もまた、「哲学史」の本流からは区別されます。

しかし、私たちのあり方を根本から捉え直す哲学という営みにおいて、そのような偏りが生じるのは望ましくないことです。

そのような哲学の最前線が直面している課題について、哲学者の中島隆博先生と一緒に考える講義を紹介します。

哲学のあり方を組み替える「世界哲学史」

哲学の偏りを解消すべく、中島先生らによって今まさに実践されているのが、「世界哲学史」という取り組みです。

この世界哲学史によって、これまで西洋中心で語られてきた哲学のあり方を組み替えることが目指されています。

しかし、どうやって哲学を組み替えることができるのでしょうか?

この問いは簡単に答えられるものではありません。世界哲学史においては、どのような方法を取るべきか考えること自体が、チャレンジングな哲学的課題であるのです。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2020 中島隆博

ただし、中島先生は、比較哲学のようなやり方に頼っていてはいけないと言います。単に各地域や時代ごとに思想を列挙しても意味がありません。二者間、三者間の比較にとどまるのではなく、最終的には世界全体の文脈で理解し、普遍化させる必要があるのです。

このような世界哲学は、安定しておらず、人を不安な気持ちにさせると言います。しかしそのおかげで、人が当たり前だと思っている常識を揺さぶることのできる可能性があります。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2020 中島隆博

哲学の最前線を知る

このような抽象的な説明だけを聞くと、「結局どうやって世界哲学史を実現するの?」という問いばかりが浮かんでくるかもしれません。

繰り返すように、この実践はまだ始まったばかりであり、明確な答えはありません。

しかしその分、そこで交わされる議論は非常にアグレッシブです。

この講義では最後に学生からの質疑応答の時間があります。

「西洋と東洋の哲学に影響力の差が生じたのはなぜ?」「東洋の思想が更新されないのはなぜ?」「東洋的な感情を重視する思想には問題点があるのでは?」

このような学生からのクリティカルな質問に対し、中島先生は積極的に、そして真摯に応えてくださっています。そのような中島先生の姿から、みなさんもきっと哲学の最前線を感じることができるはずです。

今回紹介した講義:30年後の世界へ ―「世界」と「人間」の未来を共に考える(学術フロンティア講義)第4回 世界哲学と東アジア 中島 隆博先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2022/01/21

「仲間」ってなんだろう?

私たちは普段、当然のように「仲間」という言葉を使っていますが、それが何を意味するかについて、実はよくわかっていません。

私たちにとって、「仲間」とはなんなのでしょうか?それはどのような価値を持つのでしょうか?

自閉症をテーマとして、哲学者である國分功一郎先生、医師である熊谷晋一郎先生と一緒に、理論と実践の双方から、「仲間」について考える講義です。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2020 國分功一郎 熊谷晋一郎

障害者の「医学モデル」と「社会モデル」

講義はまず、ご自身も脳性まひという障害を持つ熊谷先生による、障害者研究についてのお話から始まります。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2020 國分功一郎 熊谷晋一郎

これまで障害者を研究する際、大きく分けて2つのモデルが取られてきました。それは「医学モデル」「社会モデル」です。

「医学モデル」が身体の内側に障害者の問題があるとする一方、「社会モデル」は身体と外環境との相性の悪さこそが問題であると捉えます。

それでは、自閉症などのコミュニケーション障害は、どちらで考えられるべきなのでしょうか?一般的に、コミュニケーション障害は当人の問題だと見なされやすいと思います。しかし、熊谷先生は「社会モデル」で捉えることを提案します。

「類似的他者」から考えるコミュニケーション障害

コミュニケーション障害を「社会モデル」として捉えるとはどういうことなのか、哲学者の國分先生は「類似的他者」という概念を用いてこれを説明します。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2020 國分功一郎 熊谷晋一郎

20世紀後半の哲学の重要なテーマは「他者」でしたが、そこでは「他者とは分かり合えない」という考えが共通理解としてありました。

「類似的他者」はこれへの批判的応答として提示された概念です。この概念において、他者は自分と全く異なる存在ではなく、似たところもある存在として理解されます。

コミュニケーション障害を持つ人は、コミュニケーション障害を持っていない人、つまり「定型発達」と呼ばれる人たちとのコミュニケーションに困難を生じますが、これは両者が「類似的他者」でないからだと説明できるのです。

その証拠に、コミュニケーション障害を持つ人同士では、うまくコミュニケーションが成立することがあるといいます。類似した仕方で世界を見ている人は、互いに交流することができるのです。

「自分依存」の近代的人間

このように考えると、「類似的他者」は1つの「仲間」であるといえるのかもしれません。國分先生は熊谷先生と依存症患者の自助グループを訪れた際、そこで絆のようなものが見られたと述べますが、当事者でしか見えないもの、わからないものはたしかにあるのだと思います。

熊谷先生の専門は「当事者研究」ですが、これはまさに障害などマイノリティとしての性質を持った当事者が、自らを対象としておこなう研究のことです。当事者の視点で研究をおこなうことで、これまで無視されてきた視点が回復されるのです。

この当事者研究は、単にそのマイノリティの性質やあり方を明らかにするだけではありません。これは、いままでの研究が前提としてきた「近代的人間像」を問い直すことにもつながります。

生活をするうえで、他の人に頼れない、自分を信じて生きていくしかないと感じることはありませんか?

もしこのように考えているのであれば、まさにあなたは「自分依存」の近代的人間かもしれません。

講義は、國分先生の「中動態」概念から、意志と責任の問題、過去の切断、人間関係の問題まで、縦横無尽、盛りだくさんにすすんでいきます。

この世界になんとなく生きづらさを感じている人は、ぜひこの講義動画を観て、新たなものの見方を身につけてみてください。

今回紹介した講義:30年後の世界へ ―「世界」と「人間」の未来を共に考える(学術フロンティア講義)第13回 中動態と当事者研究:仲間と責任の哲学 國分 功一郎先生、熊谷 晋一郎先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2022/01/14

憲法は、私たちの生活から距離があるものだと感じている方も多いかもしれません。

しかし文学者である竹内好は、憲法について、「民衆が育てるべきもの」だと言っています。

では、憲法を育てるとはどういうことなのでしょうか。

私たちはどのように憲法に向き合う必要があるのでしょうか。

今回はそのような問いに答えるための講義を紹介します。

30年後の世界へ―学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)

東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, 以下EAA)は、「東アジアからのリベラルアーツ」を標榜しつつ、北京大学をはじめとする国際的な研究ネットワークの下に、「世界」と「人間」を両面から問い直す新しい学問の創出を目指す、東京大学の研究教育センターです。

EAAでは「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」と題して、東京大学内外の教員によるオムニバス講義(学術フロンティア講義)を開講しました。

昨年に引き続き、この授業で射程に入れるのは、30年後の世界についてです。2020年から始まった新型コロナウィルス感染症は、世界のありようを大きく変えました。

そのような未知の状況のなかで、これまで一般的には善きものとされている学問が、時として「悪」に加担してしまっているのではないか、さらに言えば、学問そのものが「悪」なのではないか、という問いを本講義では立てます。

その観点に立ち、哲学、文学、歴史学、社会学、生物学など様々な分野の教員が講義をおこなっています。さらに、東京大学内だけでなく、延世大学、香港城市大学など、学外の講師による講義もおこないました。

新型コロナウィルス感染症や、国内の原子力発電所の問題、ポスト・トゥルースなど、今を生きる私たちが直面している身近な問題を取り扱っているので、興味を持って視聴することができるでしょう。ぜひ、ラジオ感覚でリラックスしながら受講してみてください。

竹内好―本文魯迅研究で知られる中国文学者の憲法論

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 王欽

今回ご講義いただいたのは、文学研究者である総合文化研究所の王欽先生です。

この講義では、文学者である竹内好から発される戦後憲法の議論を取り上げ、我々がどのように憲法に向き合っていくべきかについて学びます。

竹内好は、魯迅研究で広く知られる中国文学者ですが、憲法に関しても「私たちの憲法感覚」などのテクストを残しています。1960年の新日米安全保障条約締結に際しては、教職を辞して抗議の姿勢を示しました。彼の憲法批判が安保闘争の最中に行われたことは、民衆が運動を通じて憲法を主体化していかなければならないという彼の主張を裏付けています。

王先生は、文学者から発される憲法論として、竹内好の議論を取り上げています。

王先生によると、竹内好の問題意識は、民衆と戦後憲法の距離にあります。

戦後憲法は、アメリカGHQが作成に携わった外来的なものでした。

たしかに、私たちの所感としても、憲法が表現する「普遍的な原理」は、我々の生活から少し離れたものであるような気がします。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 王欽

そのように、憲法が表現する「人類の普遍の原理」と、民衆の大日本帝国主義から敗戦までの「具体的な経験」の間に齟齬が生じてしまったのです。

そして、このような距離ないし齟齬の克服のためには、「憲法というテクストを民衆が内在化する」ことが必要だと竹内好は主張します。

これこそが、憲法を育てることに他なりません。

すなわち、憲法を守ることは、憲法の起草者の意思や意図を守ることではなく、憲法のポテンシャルや精神を守ることにあります。

そして、そのためには、民衆が、憲法の精神を自分のものとしていくことが必要なのです。

憲法を育てるために私たちができることとは

「昨今の改憲に関する議論は、私には関係ないや」、と思った方、本当にそうでしょうか?

王先生は、竹内好のテクストを基に、「憲法は、民衆に内在化され主体化されることで、はじめて、単なるテクストではなく、それ自体が生命を持つようになる」と言っています。
しかし「憲法を内在化して育てる」といっても、具体的に私たち民衆は何をすればよいのでしょうか?
その一例として、デモに参加することが挙げられるのではないか、と王先生は仰っています。

我々は、どのようにして「憲法を育てる」ことができるのか、王先生と一緒に考えてみませんか?

今回紹介した講義:30年後の世界へー学問とその”悪”について(学術フロンティア講義)第12回 私たちの憲法”無感覚”-竹内好を手がかりとして

<文 / 島本佳奈(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2021/12/24

東京大学本郷キャンパスの中心にそびえ立つ安田講堂。

東大の学生は何度も目にして親しんでいると思いますし、観光や散歩で東大に来たことのあるかたの印象にも残っていると思います。

それでは、その安田講堂を作った建築家、内田祥三についてはどうでしょうか?

「内田ゴシック」という言葉になんとなく聞き覚えはあっても、詳しく知らないという人が多いのではないでしょうか?

そんなあなたのために今回は、内田と彼の建築について知ることで、東大を楽しく散策できるようになる講義を紹介します。

東大建築の祖・内田祥三

講師を務めてくださるのは、日本の近代現代建築史が専門の東京大学名誉教授、藤森照信先生です。

東京大学 UTokyo OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2014, 藤森照信

講義は、日本の建築を語るうえで外すことのできない重要人物である、日本に西洋建築を広めた明治期の御雇外国人、コンドルについての話から始まります。大正から昭和にかけて活躍した内田は、コンドルの生徒の辰野金吾の、そのまた生徒の佐野利器に学びました。

そんな内田はなんといっても、安田講堂をはじめとする東京大学の建築で知られています。

東大の安田講堂-東京大学 UTokyo OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2014, 藤森照信

たとえばその作品は、安田講堂や東大総合図書館、東大工学部4号館、東大法学部3号館、東大農学部1号館、東大医学部1号館などなど……あなたがよく利用する建物も、もしかすると内田によるものかもしれません。

そんな内田はまた、貧しい人たちの住居問題にも尽力しました。自身も貧しい生まれである内田は、関東大震災で家を失った人たちの住居として、鉄筋コンクリートのアパートメント(同潤会アパートメント)を設立します。藤森先生によると、今では当たり前の鉄筋コンクリートは、内田らによるこのアパートから始まったそうです。

貧しい人たちのための同潤会アパートメント-東京大学 UTokyo OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2014, 藤森照信

20世紀を代表する世界の建築家・丹下健三

講義が取り扱うのは内田にとどまりません。時代は進んで、代々木第一体育館や広島平和記念公園を作った建築家、丹下健三に話は移ります。

広島の平和記念資料館のピロティ-東京大学 UTokyo OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2014, 藤森照信

藤森先生は、丹下を「20世紀を代表する世界の建築家」だといいますが、その功績に比して知名度は決して高くはありません。 

藤森先生は「絵画や文学と違って日本で建築は「教養」のなかに入っていない」といいます。そのため、丹下ほどのビッグネームであっても、私たちにはあまり馴染みがないのです。

しかし建築は、絵画や文学以上に、私たちの生活に密着しています。その来歴について知らないのは、少し残念ではないですか?

ぜひこの講義動画を観て、東大生にとって身近な建造物の話から、日本の近代建築の重要なトピックを学んでみてください。

今回紹介した講義:新・学問のすゝめー東大教授たちの近代(学術俯瞰講義)第3回 内田祥三・丹下健三と建築学の戦中・戦後 藤森 照信先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2021/12/17

米国大統領選のフェイクニュース、新型コロナウイルスの陰謀論……

インターネットの発達もあり、このような「真実」を軽視するような言説を目にすることが増えてきました。

今回は、そんな私たちの日常生活とも深く関わっている言説について考えるための講義を紹介します。

30年後の世界へ―学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)

東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, 以下EAA)は、「東アジアからのリベラルアーツ」を標榜しつつ、北京大学をはじめとする国際的な研究ネットワークの下に、「世界」と「人間」を両面から問い直す新しい学問の創出を目指す、東京大学の研究教育センターです。

EAAでは「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」と題して、東京大学内外の教員によるオムニバス講義(学術フロンティア講義)を開講しました。

昨年に引き続き、この授業で射程に入れるのは、30年後の世界についてです。2020年から始まった新型コロナウィルス感染症は、世界のありようを大きく変えました。

そのような未知の状況のなかで、これまで一般的には善きものとされている学問が、時として「悪」に加担してしまっているのではないか、さらに言えば、学問そのものが「悪」なのではないか、という問いを本講義では立てます。

その観点に立ち、哲学、文学、歴史学、社会学、生物学など様々な分野の教員が講義をおこなっています。さらに、東京大学内だけでなく、延世大学、香港城市大学など、学外の講師による講義もおこないました。

新型コロナウィルス感染症や、国内の原子力発電所の問題、ポスト・トゥルースなど、今を生きる私たちが直面している身近な問題を取り扱っているので、興味を持って視聴することができるでしょう。ぜひ、ラジオ感覚でリラックスしながら受講してみてください。

真実の終わり? ‐ 21世紀の現代思想史のために

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 星野太

フェイクニュースや陰謀論など、客観的な事実よりも感情に訴えかける言説が支持される現象は、「ポスト・トゥルース」と呼ばれ、近年注目を集めています。

「真実」を追求する学問に励んでいる方のなかには、このような状況にうんざりしたり、または危機感を覚えたりする人も多いのではないでしょうか?

でも、もしその「学問」が、ポスト・トゥルース的な状況を引き起こす一因となっているとしたら……

今回取り上げるのは、「フランス現代思想」と呼ばれる哲学の一分野です。

講師は、現代哲学や美学が専門の星野太先生が務めます。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 星野太

フランス現代思想は、「あらゆるものに複数の答えがある」、「真実は存在せず、すべては解釈である」と主張するものとして一般的に理解されている思想です。

このような相対主義的な考え方が、まさしく根拠のないフェイクニュースや陰謀論を1つの解釈として肯定しているものだと捉えられ、批判されているのです。

しかし、星野先生は、このような通俗的な理解に基づいたフランス現代思想批判は、フランス現代思想を曲解したものであると主張されます。

間違った理解のもとになされるポスト・トゥルース批判が、皮肉にもポスト・トゥルース的状況を反復しているのです。

「真実」とはいったい何か

果たして、「真実」とはいったい何なのか?どうすれば学問は「真実」を探求することができるのかということを考えさせてくれる講義です。

哲学の話なら自分に関係ないや、と思った方、本当にそうでしょうか?

星野先生は「自分がやっている学問がイデオロギーとは無縁だという考え方が一番危険」だと言います。

そんな星野先生と一緒に、自分が探求する「学問」というものについて改めて向き合ってみませんか?

今回紹介した講義:30年後の世界へ ― 学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)第7回 真実の終わり? ‐ 21世紀の現代思想史のために 星野 太先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2021/12/10

「自分は正しい、正義だ」という思い込みが危険だという実感、ありませんか?

SNSなどでは正義感から誹謗中傷を行う人などを見かけることもよくあり、「善」がいかに簡単に「悪」になりうるか感じることも多いと思います。

善が実は悪であること、悪が実は善であること、善と悪は同じであること。

一見、禅問答のようにも思えるテーゼですが、この「悪をめぐる三つのパラドックス」から、30年後の未来をどう生きるかということについて考える講義を紹介します。

30年後の世界へ―学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)

東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, 以下EAA)は、「東アジアからのリベラルアーツ」を標榜しつつ、北京大学をはじめとする国際的な研究ネットワークの下に、「世界」と「人間」を両面から問い直す新しい学問の創出を目指す、東京大学の研究教育センターです。

EAAでは「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」と題して、東京大学内外の教員によるオムニバス講義(学術フロンティア講義)を開講しました。

昨年に引き続き、この授業で射程に入れるのは、30年後の世界についてです。2020年から始まった新型コロナウィルス感染症は、世界のありようを大きく変えました。

そのような未知の状況のなかで、これまで一般的には善きものとされている学問が、時として「悪」に加担してしまっているのではないか、さらに言えば、学問そのものが「悪」なのではないか、という問いを本講義では立てます。

その観点に立ち、哲学、文学、歴史学、社会学、生物学など様々な分野の教員が講義をおこなっています。さらに、東京大学内だけでなく、延世大学、香港城市大学など、学外の講師による講義もおこないました。

新型コロナウィルス感染症や、国内の原子力発電所の問題、ポスト・トゥルースなど、今を生きる私たちが直面している身近な問題を取り扱っているので、興味を持って視聴することができるでしょう。ぜひ、ラジオ感覚でリラックスしながら受講してみてください。

悪をめぐる三つのパラドックス

今回お話しいただくのは総合文化研究所の朝倉友海先生。西洋の哲学と東洋の哲学を両方専攻されているという珍しい経歴をもつ方ですが、この講義では、その両方の哲学を横断的に紹介しながら、「悪をめぐる三つのパラドックス」について考察されています。

具体的に、それぞれのパラドックスで扱うのは、以下の哲学者・思想です。

善が実は悪であること:カント、アドルノ、ホルクハイマー

カントは、自身のことを道徳的だとみなすことを「Moral enthusiasm(道徳的熱狂)」と呼び、批判しました。このような道徳的熱狂は今日よく見られるものですが、その危険性は18世紀の時点で理解されていたのです。

悪が実は善であること:ニーチェ

「ルサンチマン」という言葉を聞いたことはありませんか?端的に言えば、弱者が強者に対して抱く「嫉妬心」のことです。ニーチェは、ルサンチマンのもとなされる評価様式においては、「弱いことのみが善いことだ」と判断されると指摘します。

善と悪は同じであること:存在論、仏教思想

仏といえば、悪とは無縁なイメージがありますが、実際には悪を断ち切ってはいないと言います。むしろ「悪を完全に理解したものが仏」なのです。悪事をなさないためには、悪を理解する必要があるというのは、現代社会にも通じるものがあると思います。

そのほか、ユダヤ人の大量虐殺を行なったアイヒマンの裁判から「悪の陳腐さ」を語ったハンナ・アーレントの思想や、2度目以降の「悲劇」は「茶番」になると主張したカール・マルクスの思想にも触れながら、善と悪の関係について考えていきます。

間違うことを恐れずに直感を信じて賭ける

講師の朝倉先生は、30年後の未来について、「悪事はよくないが、未来はどうなるか分からないのだから、「直観」を信じて賭けるしかない」と言います。

今回のパラドックスが示したように、善と悪が曖昧に揺れ動くものであるならば、自身が「善」であり続けることは、確かに難しいような気がします。

だからこそ、「創造性」をもたらすためには、間違うことを恐れず、直観に従うしかありません。

「直観に賭けろと言われても、一体どう賭ければいいの?」と思ったあなた。

この講義には、未来に向かってどう「賭ける」かのヒントが詰まっています。ぜひ動画を視聴して、それを皆さんで探し出してください。

今回紹介した講義:30年後の世界へ ― 学問とその“悪”について(学術フロンティア講義) 第6回 悪をめぐる三つのパラドックス 朝倉 友海先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>

2021/03/19

こんにちは、OCWスタッフです。

3月に入り、一気にあたたかく春らしい気候になってきましたね。

東京は開花宣言もあり、いよいよ春が来たなとわくわくします。

今年はゆっくりお花見は難しいですが、スタッフは通勤やお散歩の途中に咲いている花々を見ながら春の訪れを楽しみたいと思います。

さて、春は出会いと別れの季節ですね。

東京大学では2月3月になるとあちこちで追い出しコンパがあったり、ご退職の先生方の最終講義が行われたりしています。今年は追い出しコンパは難しく、最終講義もオンライン開催が多いため、例年のような賑わいはありません。オンライン開催によってより多くの方が最終講義を聞くことができると言う意味では悪いことばかりではないのですが、やはり早く元のように、直接お世話になった先生や先輩にお礼が言えるような日常が戻ってくるといいなと思います。

今回は、今年度で東京大学をご退職される先生方のOCWでの講義をご紹介していきたいと思います。

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2021/02/24

こんにちは、UTokyo OCWスタッフです。

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、仕事、生活、娯楽、いろいろな面で我慢をしなければならない日々が続いていますね。

なかなか終わりの見えない毎日で、気が滅入ることもありますがUTokyo OCWが少しでも皆さんのお役に立てたらと思っています。

今回から数回にわたり、過去の学術俯瞰講義からスタッフおすすめの講義をシリーズごとに取り上げてみたいと思います。

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