夏の風物詩の一つといえば、怪談ですね。
ということで、今回は怪談のような怖い話から紹介します(といっても、ホラーのような話ではないので、苦手な方も安心してご覧ください)。
1984年のある日、アフリカの国・カメルーンの、のどかな湖畔で起きた事件の話です。早朝5時ごろ、12人の人が一台のトラックに乗り(アフリカの田舎なので荷台に人が乗ってもあまり問題がないらしい)、市場に向かっていました。すると突然、トラックのエンジンが止まりました。荷台に乗っていた人たちの何人かが様子を見るため、トラックを降りました。
すると、その人たちは次々と倒れていったのです。それに驚いてトラックを降りた運転手たちも倒れてしまいました。
トラックの上に乗っていた2人はそれを見て、しばらく降りずにいましたが、流石にずっとそのままいるわけにもいかず、時間が経ってから降りました。すると、その2人は助かりましたが、倒れた人たちは亡くなっていました。
近隣でも同時刻に人々が倒れ、37名の死者が出ました。しかし、この事件の真相は謎に包まれたままでした。
2年後の1986年8月、同じカメルーンにある、別の湖の周辺でも、再び似たような事件が起きました。
湖周辺の村落からの連絡が突然途絶えたことを受け、近隣の人々が訪れると、牛や鶏といった動物をはじめ、なんと1746人もの人々が亡くなっていました。
どうやら短時間で多くの命が何者かによって奪われたようでしたが、人間や動物に外傷はなく、周囲の植物や建物なども無傷でした。
さあ、これらの事件の犯人は一体何なのでしょうか。
今回紹介するのは、こんな不思議な事件の話から始まる、もう導入から面白い、穴澤活郎先生の『不思議な災害(カメルーン)』という講義です。穴澤先生は、以前『【温泉で学ぶ!】「中和」という化学反応』というだいふくちゃん通信で紹介した講義も担当されています。
事件の犯人は誰だ
さて、それでは講義に沿って事件の真相に迫っていきます。
災害の数日後、国際救援活動と、日本、アメリカ、フランスなどの火山学者らによる調査が始まりました。面白いことに、フランスには火山が少ないのですが、他の国に行って調査などをしており、日、米と並び三大火山研究国に数えられているそうです。火山のたくさんあるイタリアで、イタリアの研究者よりも火山の調査をしているのだとか。
河川の流れに沿うように被害者が出ていたため、水が原因の一つとして考えられました。しかし、短時間で多くの被害が出たこともあり、この線はなさそうです。
また、周囲に火山があることから、火山ガスが原因に挙げられました。火山ガスは有毒な物質を含むことが多く、短時間で多くの被害が出る危険なものです。
実際、穴澤先生は薩摩硫黄島で調査をしていた際、音のなる機械で調査を行っている最中に、背後で音もなく起きた水蒸気爆発に気づかず、危うく命を失いかけたそうです。
再び少し脱線してしまいましたが、話を戻します。
研究者たちは火山ガスの調査を行います。
しかし、水に含まれる物質や植物への被害などを調査した結果、どうやら犯人は火山ガスでもないようです。では、一体何なのでしょうか。
研究者たちが辿り着いた答えは、そう、我々の身近にも存在する、ある物質だったのです。
それが二酸化炭素です。
しかし、「あれ、二酸化炭素ってそんなに危険なんだっけ?」と思われる方も多いと思います。二酸化炭素は濃度が低い分には健康に大きな被害はないので普段気になることはありませんが、非常に濃度が高く、肺が二酸化炭素で満たされると、一瞬にして人の命を奪うことができます。
この事件の真相は、高濃度の二酸化炭素による窒息という災害だったのです。
では、一体どうして多くの人の命を奪うほどの二酸化炭素が発生したのでしょうか。
この原因として、「水蒸気爆発」と「湖水爆発」という二つの原因が考えられました。
水蒸気爆発というのは、マグマだまりから直接二酸化炭素が発散する現象で、湖水爆発というのは、湖底に徐々に滞留した二酸化炭素が過飽和状態(今にもあふれそうな状態)となり、それが何かのきっかけで爆発的に噴出するという現象です。
そして調査の結果、原因は湖水爆発であるという結論が出ました。ただ、その直接的な原因となったトリガーは未だに分かっていないそうです(有力なのは地滑りとされています)。
また、トラックの上にいた2人が助かったのは、二酸化炭素が周囲の空気より重く、トラックの上では二酸化炭素の濃度がそこまで高くならなかったからでした。
事件が再び起きないように
災害の原因が分かったということで、次は再発を防止する対策が行われます。
湖水爆発は湖底に二酸化炭素が過度に溜まることにより起きるので、それを除去する「脱ガス」をすれば防ぐことができます。
湖底までパイプを降ろし、パイプ内の水をポンプで引き出すことで、あとは二酸化炭素の圧力によって自然と湖底の水が噴出されるというのが、脱ガスの仕組みの簡単な説明になります。
これらの対策の結果、実際に湖の溶存二酸化炭素量は減少し、災害の再発を防ぐことができています。
下の写真は、穴澤先生が実際に現地で調査してきたときのものです。講義では、度々穴澤先生が直接現地に調査に行った時の画像や動画などが体験談とともに紹介されています。
この写真に写っているのが穴澤先生ご本人で、その後ろに3本立ち上っている水しぶきが、実際に脱ガスが行われている様子です。
穴澤先生曰く、お風呂もない現地の調査では、湖に浸かって汗を流すのが一番の楽しみだそうです。
湖のその後
脱ガスにより湖の二酸化炭素は減少しましたが、全てが上手くいったわけではありません。
下の画像のように、パイプを追加した2013年には噴出量が減少し、湖面が赤くなっているのが分かります。
なぜ噴出量が減少し、何が湖の水を変色させたのでしょうか。
ここで穴澤先生は身体を張って実験をします。何と、湖の水を飲んで自分の舌で確かめたのです。曰く、「化学者にとって味見は大切で、舌で味を見るという化学反応を使うのが早い」そうです。
さて、水はどんな味がしたのでしょうか。そして何が分かったのでしょうか。
その結果や湖面の色が変化した理由は、ぜひ講義で確かめてみてください。
講義では、事件の真相や原因、そしてその対策やその結果まで、より詳しく説明されています。
また、先ほども紹介したように、実際に現地に行って調査をしている穴澤先生の写真や動画、体験談も沢山使われており、楽しみながら研究されている様子が伝わってきます。
恐らく多くの人は知らないであろう災害とその対策について、ぜひ講義を通じて学んでみてください。
今回紹介した講義:人間環境システム学 第9回 不思議な災害(カメルーン) 穴澤 活郎先生
●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。
関連記事:【温泉で学ぶ!】「中和」という化学反応
<文/大澤 亮介(東京大学学生サポーター)>