【温泉で学ぶ!】「中和」という化学反応
2023/06/28

皆さん、温泉は好きですか?

世界屈指の温泉大国である日本では、昔から今に至るまで、多くの人が温泉に癒されてきました。

入ると癒される温泉ですが、実は普通の水と違い、利用するには不便なこともあります

今回のテーマは、そんな温泉の正体である「酸性水」の特徴と、「中和」という化学反応です。

ご紹介するのは、地球・分析化学や自然環境化学をご専門とされる穴澤活郎先生による「酸性河川中の溶存化学物質の挙動」「酸性温泉水、坑廃水」という2つの講義。

これら2つの講義では、大規模な中和事業が行われてきた「草津温泉」「玉川温泉」「旧松尾硫黄鉱山」という3つの例が紹介されていますが、この記事では草津温泉と玉川温泉の2つについて紹介します。

身近な温泉を舞台に、酸性水や中和を通して化学の世界を少し覗いてみましょう!

そもそも酸性水って何?

溶液は、その水素イオン濃度により「塩基性」「中性」「酸性」に分けられることを、多くの方が中学校などで習ったのではないでしょうか。

酸性水というのは、簡単に言えば水素イオンが多く存在する水です。

水素イオン濃度はpHという指数で表され、一般的に0~14の中で、酸性が強いほど数値は低くなり(0に近づく)、塩基性が強いほど数値が高くなります(14に近づく)。中性はpHが7です。

温泉の水は酸性水で、例えば、草津温泉のpHは約2と結構強め。

そんな酸性水は様々な反応を起こしやすいため、不便なことが多いのです。

例えば、建物などによく使われるコンクリートの劣化を促したり、水中生物や土壌に悪影響を及ぼして漁業や農業に問題を起こしたりすることがあります

また、普通の水には溶けない、人体に有毒な金属などを溶かすこともあります

草津温泉水によるコンクリートの腐食実験。草津湯畑の写真と、吾妻川流域にて日をへるごとに酸性水によって痩せたコンクリート片の写真。
UTokyo Online Education 人間環境システム学 2021 穴澤活郎

これを聞くと、「温泉って、そんなに危険そうな水なの!?大丈夫!?」と思われるかもしれません。

ご安心ください。人体は酸性水に比較的強く、ご存知のように温泉に入っても少しピリピリするくらいで、みなさんが温泉につかるのには問題ありません。

温泉の水はどこからくるの?

ではこの酸性水、一体どうやってできているのでしょうか。

酸性水の生成機構は二通りあるようですが、ここでは、温泉なども該当する火山による酸性水の生成について紹介します。

少し化学の要素が強いので、分からない方はスルーしていただいても大丈夫です。

まず、雨や雪などが地下水となり、マグマにより熱せられると、マグマの中に含まれる様々な物質が地下水に溶け込みます。

温泉施設ではよく成分や効能が書かれた表を目にしますが、これはこのように様々な物質が溶けているからです。

そして中でも、二酸化炭素(CO2)や硫化水素(H2S)、二酸化硫黄(SO2)、塩化水素(HCl)といった物質はいずれも水に溶けると酸性となるため、これらが溶けた地下水は酸性となります

地下深くは非常に温度と圧力が高いのですが、酸性となった地下水が段々と上昇していくと温度や圧力が下がっていき、気体(Vapor)と液体(hot spring water)に分かれます。

上記の説明を図にして化学式を添えた図。
UTokyo Online Education 人間環境システム学 2021 穴澤活郎

この気体は一般に火山ガスと呼ばれるものです。そしてこの液体が温泉にもなる酸性水です。

酸性水が川に流れ込むと酸性河川となります。

先ほど紹介したように、酸性水は農業や漁業には向かないため、利用する場合は適切に処理する必要があります。

それが「中和」です

中和は中学校などでも習う化学反応で、酸性の物質(酸)と塩基性の物質(塩基)を反応させることで、塩(えん)と水が生成されます。

例えば、下のように酸の塩化水素(HCl)と塩基の水酸化ナトリウム(NaOH)を反応させると、中性の塩化ナトリウムと水を得ることができます。

HCI+NaOH→NaCl+H2O
UTokyo Online Education 人間環境システム学 2021 穴澤活郎

酸性水もこの中和により普通の水にすることで、利用することができます。

それでは、ここから実際の中和事業について見ていきましょう。

草津温泉の中和事業

まずは日本有数の温泉地である草津温泉。

付近の川は、1960年以前まで強酸性水であったため魚類が生息せず「死の川」と呼ばれていました

川の水を農業に利用できず、コンクリートが劣化してしまうため橋などもかけられないということで、1957年から中和事業が開始され、1964年に世界初の酸性河川中和工場ができます

この中和工場は草津温泉を代表する「湯畑」からも歩いていくことができ、工場見学もできるそうです。

そして翌年には品木ダムができます。

草津温泉の中和事業では、工場内で河川の水を溜めて中和するのではなく、塩基性を示す石灰水を直接川に流し込むことで中和させ、出来た塩をダムで沈殿させているのが特徴的です。

草津の中和工場。上の説明の図と、沈殿物を下流のダムに流している機構の写真。
UTokyo Online Education 人間環境システム学 2021 穴澤活郎

酸性河川の中和反応を化学式にすると以下のようになります。

H+というのが酸性を示す水素イオンのことで、これを石灰(CaCO3)と反応させ、水(H2O)とカルシウムイオン(Ca+)、二酸化炭素(CO2)が生成されます。

そしてカルシウムイオンは、元々水素イオンと結合していた硫酸イオンなどとくっついて塩となり、沈殿します。

中和。2H+ + CaCo3 = H2O + Ca2 + CO2
UTokyo Online Education 人間環境システム学 2021 穴澤活郎

中和に使っている石灰は日本でもたくさん採ることができます。

しかし、品木ダムの容量が近年問題となっていると穴澤先生は言います。

中和で生成する塩などを品木ダムで沈殿させているため、沈殿物がどんどん溜まってしまい、2017年の段階で全貯留容量の約87%が使われてしまっています

沈殿物をダムから取り除く浚渫(しゅんせつ)作業には高いコストがかかるため、この点が草津温泉での中和事業の課題となっています。

玉川温泉の中和事業

次に、秋田県にある温泉である玉川温泉。

玉川温泉の水はpH1.2とかなりの強酸性です。

玉川温泉周辺の河川では、戦時中に食料増産などのため河川水を利用するべく、中和事業が行われました。

このとき、酸性水を地下の岩石などと接触させ、中和させようと試みましたが失敗に終わります。

さらに、日本一深い湖である田沢湖に流し込む事業も行われましたが、こちらは田沢湖の酸性化を招き、中止。

その後、草津温泉に遅れること約10年、1972年に石灰石による中和が始められ、90年代に玉川ダムと中和工場が完成します。

玉川温泉の中和工場では、草津温泉と違って工場内に中和槽があり、ここで中和反応を起こします。そして沈殿物をある程度回収したうえで河川に水を戻すため、玉川ダムでは沈殿があまり起きず、全貯留容量の1%ほどしか利用されていません

人間の営みにより生成してしまう酸性水も

今回は、身近な温泉をテーマに、酸性水の利用と中和反応について紹介しました。

中和事業のおかげで酸性河川も利用できるようになった一方、草津温泉の品木ダムの容量不足のような問題があることは、あまり知られていないかもしれません。

第8回の講義の後半では、三大中和事業の残る1つ、「旧松尾硫黄鉱山」や、現在研究されている新たな中和方法について紹介されています。

旧松尾硫黄鉱山では、草津温泉や玉川温泉のように自然にできる酸性水とは異なり、人間の影響でできてしまった酸性水を中和するための事業が行われています。

ぜひ講義を実際に見て、その歴史や今に残る課題を学んでみましょう!

今回紹介した講義:人間環境システム学(学術俯瞰講義)第7回 酸性河川中の溶存化学物質の挙動 穴澤 活郎先生

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。

<文/大澤 亮介(東京大学学生サポーター)>