冬といえば気を付けなければならないのが火災。
2024年1月1日の能登半島地震に伴って発生した輪島市の大規模火災は、まだ皆さんの記憶にも新しいと思います。
また、筆者は今年(2025年)の夏に沖縄の首里城に行きました。こちらも2019年10月31日に大規模な火災が発生し、正殿の復元工事は来年秋にようやく完成します。夏に見学した際はまだ工事中でしたが、復元の過程や様子を見学できました。
さて、このような火災のたびに話題になるのが、木造建築です。
被害にあった輪島市の建物も木造のものが多く、首里城も木造です。
木材は日本の建築では古来から用いられてきましたが、木造建築はどうすれば火事を防げるのでしょうか?また、そもそも木造建築は本当に火事に弱いのでしょうか?
今回は、そんな木造建築の防火をテーマにした講義『歴史的木造建築の防火』をご紹介します。
講師は、ご自身も京都の伝統的な木造の町家で生まれ育った、安井昇先生です。木造建築の防火などについて研究をしながら、技術開発や、木造住宅の設計なども手がける安井先生。ご自身の経験や、たくさんの実験なども紹介しながらお話ししてくださいました。
木造建築は他の建築と何が違うのか?
まずは、木造建築の現状を確認します。
建築は多くの場合、建設当時の最先端の材料や技術で作られます。今となっては伝統的などと呼ばれる建築も、建設当時は最新の材料や技術が使われていたことでしょう。
戦後、日本の建築は鉄骨造、RC(鉄筋コンクリート)造が主です。
一方、ヨーロッパなどでは環境配慮はもちろん、工期短縮の観点からも、あえて木材を取り入れることも多くなっているそうです。また、特に大規模な建築物は木造が困難でしたが、近年はそれも可能になっています。
RC造や鉄骨造の台頭で一時は下火になった木造も進化していて、建物に必要な性能の中で木造が鉄筋造やRC造に勝てないのは、上下階方向の遮音性だけだと安井先生は言います。
「あれ、木造は火事に弱い(防耐火性が低い)んじゃないの?」と思われるかもしれませんが、近年の研究や最新の技術、そして昔からの工夫により、木造も防耐火性を高めることができるようになっています。
木造は火事に弱いのか?
木造家屋は一般的には火災に弱いとされ、実際、1950年の建築基準法制定時には、都市の不燃化のため、先述の通り木造からRC造が主流になりました。
しかし、技術進歩や実験などにより木造の防耐火性も認められるようになりました。そして制定後の改正で、耐火要件が材料などを規定するのではなく、性能(何時間火に耐えられるか、など)で規定されるようになっていき、木造の利用も促進されてきました。
※筆者注:講義開催から5年が経ち、さらに改正が重ねられ、木造、特に大規模な木造に関する規制が(前向きに)見直されています。
そもそも木造は、燃焼の速度が遅かったり、木を厚く・太くすることで燃焼の時間を遅らせたりといった利点もあります。
では木造が火災に弱いと言われるのはなぜなのでしょうか?
安井先生は、火災にあった建物の構造のデータを例に説明します。
木造の中でも、防火造・準耐火木造のものは、非木造の建築と比べて、延焼率や延焼件数にそこまで大きな差があるわけではありません。一方で、防火や耐火がなされていない木造(いわゆる昔の木造だと思えばよいそうです)は、延焼率や延焼件数が他と比べて圧倒的に多くなっています。
輪島の火災も延焼が問題となりましたが、他の家に燃え移る延焼が起きやすいのが、(対策が甘い)木造が火事に弱いとされる理由と言えるかもしれません。
では、どうしたら木造は火事に強くなるのでしょうか?
どうしたら木造が火事に強くなるの?
まず、伝統的な京町家で行われている工夫を紹介します。
京町家の建築の特徴の一つに、「袖うだつ」というものがあります。うだつとは元々小さい柱のようなものでしたが、やがて防火目的として袖うだつが発展していきます(「うだつが上がらない」のうだつです)。軒は木がむき出しで燃えやすいため、火事の際に軒を伝って隣の家に火が燃え移るのを防ぐために設けられました。
安井先生は講義の中で度々、「燃え抜けにくい」ことの重要性にも触れています。
詳しくは講義の随所で説明されているのでご覧いただければと思いますが、上の京町家では、隣家と隣接させて家の表側以外に窓を設けないことにより、内部で発生した火が燃え抜けにくいようにしています。
また、木材は外側が燃えると炭化して酸素の供給が遅くなり、燃焼が遅くなります。先にも触れたように、厚く・太くすることでも燃焼を遅らせることができます。こうした利点も活用されてきました。
さらに、火災をどこでコントロールするかも重要だと言います。そもそも出火を防ぐのか、内部の燃焼を防ぐのか、他の建物に燃え移らないようにするのか。
例えば、東大寺の大仏殿や首里城の正殿といった文化財は、文化財という性質上、材料や構造を劇的に改善するのは難しく、そもそも火を出さないことや、いかに早く消し止めるかが重要になります。
一方で、キッチンなどがある住宅では出火を完全に防ぐことはできません。なので、出火したときの影響を最小限にするよう工夫が必要です。
このように、建築の特徴などに応じて、どこで、どのように火災を防ぐかという設計が重要になります。
おわりに
講義では、実際に木材や木造建築を燃やす実験の動画や解説、また先に挙げた「燃え抜けにくい」ことの重要性がたっぷり説明されています。
また、質疑応答では、実験で杉が使われることが多いのはなぜか?木造密集地域の防火対策はどうする?といった興味深い説明もなされています。
盛りだくさんの講義をここで全て紹介することは難しいので、まだまだ物足りない!という方はぜひ講義をご覧ください!
だいふくちゃん通信・UTokyo OCWでは木造建築に関するその他の記事・動画も公開しているので、併せてお楽しみください!

(今回紹介した講義が行われたシリーズ)
〈文/おおさわ(東京大学学生サポーター)>
今回紹介した講義:歴史的建築工学 第4回 歴史的木造建築の防火 安井昇先生
●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。






