【木造建築の現代】時を超える木の温もり
2025/05/08

はじめに

今回ご紹介する「歴史的建築工学-第6回歴史的木造建築技術と現代木造建築」(2020年度開講)では、木造建築技術の歴史と現代へのアプローチについて山田憲明先生が詳しく解説されています。

UTokyo Online Education 歴史的建築工学 2020 山田 憲明

私たちは、歴史的木造建築から何を学び、現代の建築へと活かすことができるのでしょうか。先人たちが紡いだ伝統技術と現代の建築技術が出会うことで生まれる新たな可能性を探ってみましょう。

木と向き合うこと

近年、歴史的建築物の保存や改修への注目が非常に高まっています。ひとくちに「保存・改修」といっても、アプローチ方法は多岐にわたります。新しい建物を造る際とは異なり、元の建物の良さを保存しつつ、現代の基準に沿ったものにする必要があります。そこには、構造・防火・省エネ・デザインといった複合的な要素を一つ一つ検証しなければならないため、さまざまな専門家との連携が不可欠です。

また、歴史的建築物の多くは木造であり、このことこそが保存・改修をより困難なものとさせる要因となっています。木は、現代建築で用いられる素材と異なる特有の性質を持っているため、木という素材に対する徹底的な理解が求められます。そのため、歴史的建造物と向き合うことは、木と向き合うことそのものなのです。

「素材としての木の多様性」と木造建築

山田先生は、構造物の構成イメージを素材・接合・かたちという大きく3つの要素からなるものだとおっしゃっています。その中で、木造建築を語る上で特に注目したい要素は、素材・接合です。木造建築は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比較して、素材・接合の部分で独自の多様性を持っています。

これらの多様な素材と接合があるために木造建築独自の多様な“かたち”を生み出すことができるのです。ただ、裏を返すとその多様性は構造設計者の木造建築への取り組みにくさの要因ともなっているのです。

木材は、自然素材であるために、品質管理の難しさ・もろさなど、鉄筋コンクリート造などの現代建築技術においてはみられないデメリットがあります。そのため、設計や施工において慎重な検討を要するのです。一方で、素材の特性を活かした金物を用いない接合技術など、デザイン性・機能性ともに優れている面も、木材が自然素材であるが故に生み出す魅力のひとつであると言えます。

伝統木造建築へのアプローチ

伝統木造建築の保存・修築は、単に老朽化した素材を新しいものに置き換えるという作業では不十分です。実際、建物を解体した際にさまざまな問題が発見されることが多いのです。そのため、次世代へと建物を遺すために、さまざまな検討が必要となります。

補強・復元の実例

問題点の発見

歴史的建築物の解体修築例の一つとして、山田先生は香川県三豊市の本山寺五重塔の保存修理工事を挙げています。まず、建物を修築する上で、現状の問題を洗い出す必要があります。そのため、計算、模型作成などを通じてさまざまな検証が行われます。実際に、五重塔では経年劣化による耐久性の問題、建築素材の欠落などさまざまな改善点が見られました。

余談ではありますが、「解体を通じて、少ない素材を用い、工夫を重ねた当時の大工さんの努力などを伺える」と、先生は仰っており、私自身それも含めて伝統木造建築修復の魅力であると感じました。

修復時に意識すべきこと

伝統的な木造建築の補強作業に伴い、意識すべき重要なポイントがあります。それは、伝統的な意匠や技法を可能な限り維持するということです。建物を補強する上で、現代の優れた建築技術を用いることは必要不可欠です。地震や風などに耐えられるような再設計は現代の技術でしか補えない部分が当然あります。もとより、現代の技術で建造物を守ることが、伝統木造建築の修復の意義であると言えるでしょう。

しかしながら、ボルトやナットまみれになってしまうなど、現代建築技術が露骨にでるような修築では、伝統的な木造らしさが損なわれてしまいます。伝統木造建築の修復においてはそのような結果は求められず、新たな技術と、伝統技術の融合が必要とされるのです。

現代の木造建築

アナログさが生み出す温もり

私は、現代の木造建築に温もりを感じる要素の一つに、いまだに残るアナログさがあるのではないかと感じました。歴史的建造物の修復には、図面など、コンピューターを用いた作業など、現代的な技術が多く用いられています。ただその一方で、講義動画内では手計算のメモなど、計算ソフトを使わない、かなりアナログな手法が見受けられました。

UTokyo Online Education 歴史的建築工学 2020 山田 憲明

先述した通り、木材は自然素材であるためにひとつとして形が同じものは存在しません。容易に変形が可能な鉄素材などを用いた建築と比べると、木造建築は非常に形式化しにくいものです。そのため、ひとつひとつの木材との出会いは一期一会であるといえるでしょう。このような特徴は、木造建築のデメリットであると同時に、木造建築の奥ゆかしさを生む最大の要因の一つであると、講義を通じて感じました。

まとめ

本記事でご紹介したように、木造建築や伝統技術の歴史的価値現代的な観点からみた実用性の両立は、今後の建築分野においても大きな課題であり続けるでしょう。技術の進歩は、“デジタル”一辺倒に置き換えられがちです。しかしながら、木造建築においては“アナログ”な手法が、建築を支える重要な要素の一つなのではないでしょうか。講義動画では、木造建築について具体例を交えてさらに詳しく紹介されています。気になる方はぜひ動画をチェックしてみてください!

今回紹介した講義:歴史的建築工学ー第6回 歴史的木造建築技術と現代木造建築 山田 憲明先生

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。

<文/悪七一朗(東京大学学生サポーター)>