米国大統領選のフェイクニュース、新型コロナウイルスの陰謀論……
インターネットの発達もあり、このような「真実」を軽視するような言説を目にすることが増えてきました。
今回は、そんな私たちの日常生活とも深く関わっている言説について考えるための講義を紹介します。
30年後の世界へ―学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)
東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, 以下EAA)は、「東アジアからのリベラルアーツ」を標榜しつつ、北京大学をはじめとする国際的な研究ネットワークの下に、「世界」と「人間」を両面から問い直す新しい学問の創出を目指す、東京大学の研究教育センターです。
EAAでは「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」と題して、東京大学内外の教員によるオムニバス講義(学術フロンティア講義)を開講しました。
昨年に引き続き、この授業で射程に入れるのは、30年後の世界についてです。2020年から始まった新型コロナウィルス感染症は、世界のありようを大きく変えました。
そのような未知の状況のなかで、これまで一般的には善きものとされている学問が、時として「悪」に加担してしまっているのではないか、さらに言えば、学問そのものが「悪」なのではないか、という問いを本講義では立てます。
その観点に立ち、哲学、文学、歴史学、社会学、生物学など様々な分野の教員が講義をおこなっています。さらに、東京大学内だけでなく、延世大学、香港城市大学など、学外の講師による講義もおこないました。
新型コロナウィルス感染症や、国内の原子力発電所の問題、ポスト・トゥルースなど、今を生きる私たちが直面している身近な問題を取り扱っているので、興味を持って視聴することができるでしょう。ぜひ、ラジオ感覚でリラックスしながら受講してみてください。
真実の終わり? ‐ 21世紀の現代思想史のために
フェイクニュースや陰謀論など、客観的な事実よりも感情に訴えかける言説が支持される現象は、「ポスト・トゥルース」と呼ばれ、近年注目を集めています。
「真実」を追求する学問に励んでいる方のなかには、このような状況にうんざりしたり、または危機感を覚えたりする人も多いのではないでしょうか?
でも、もしその「学問」が、ポスト・トゥルース的な状況を引き起こす一因となっているとしたら……
今回取り上げるのは、「フランス現代思想」と呼ばれる哲学の一分野です。
講師は、現代哲学や美学が専門の星野太先生が務めます。
フランス現代思想は、「あらゆるものに複数の答えがある」、「真実は存在せず、すべては解釈である」と主張するものとして一般的に理解されている思想です。
このような相対主義的な考え方が、まさしく根拠のないフェイクニュースや陰謀論を1つの解釈として肯定しているものだと捉えられ、批判されているのです。
しかし、星野先生は、このような通俗的な理解に基づいたフランス現代思想批判は、フランス現代思想を曲解したものであると主張されます。
間違った理解のもとになされるポスト・トゥルース批判が、皮肉にもポスト・トゥルース的状況を反復しているのです。
「真実」とはいったい何か
果たして、「真実」とはいったい何なのか?どうすれば学問は「真実」を探求することができるのかということを考えさせてくれる講義です。
哲学の話なら自分に関係ないや、と思った方、本当にそうでしょうか?
星野先生は「自分がやっている学問がイデオロギーとは無縁だという考え方が一番危険」だと言います。
そんな星野先生と一緒に、自分が探求する「学問」というものについて改めて向き合ってみませんか?
今回紹介した講義:30年後の世界へ ― 学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)第7回 真実の終わり? ‐ 21世紀の現代思想史のために 星野 太先生
<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>