【講義紹介】30年後の世界へー学問とその”悪”について(学術フロンティア講義)第12回 私たちの憲法”無感覚”-竹内好を手がかりとして
2022/01/14

憲法は、私たちの生活から距離があるものだと感じている方も多いかもしれません。

しかし文学者である竹内好は、憲法について、「民衆が育てるべきもの」だと言っています。

では、憲法を育てるとはどういうことなのでしょうか。

私たちはどのように憲法に向き合う必要があるのでしょうか。

今回はそのような問いに答えるための講義を紹介します。

30年後の世界へ―学問とその“悪”について(学術フロンティア講義)

東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, 以下EAA)は、「東アジアからのリベラルアーツ」を標榜しつつ、北京大学をはじめとする国際的な研究ネットワークの下に、「世界」と「人間」を両面から問い直す新しい学問の創出を目指す、東京大学の研究教育センターです。

EAAでは「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」と題して、東京大学内外の教員によるオムニバス講義(学術フロンティア講義)を開講しました。

昨年に引き続き、この授業で射程に入れるのは、30年後の世界についてです。2020年から始まった新型コロナウィルス感染症は、世界のありようを大きく変えました。

そのような未知の状況のなかで、これまで一般的には善きものとされている学問が、時として「悪」に加担してしまっているのではないか、さらに言えば、学問そのものが「悪」なのではないか、という問いを本講義では立てます。

その観点に立ち、哲学、文学、歴史学、社会学、生物学など様々な分野の教員が講義をおこなっています。さらに、東京大学内だけでなく、延世大学、香港城市大学など、学外の講師による講義もおこないました。

新型コロナウィルス感染症や、国内の原子力発電所の問題、ポスト・トゥルースなど、今を生きる私たちが直面している身近な問題を取り扱っているので、興味を持って視聴することができるでしょう。ぜひ、ラジオ感覚でリラックスしながら受講してみてください。

竹内好―本文魯迅研究で知られる中国文学者の憲法論

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 王欽

今回ご講義いただいたのは、文学研究者である総合文化研究所の王欽先生です。

この講義では、文学者である竹内好から発される戦後憲法の議論を取り上げ、我々がどのように憲法に向き合っていくべきかについて学びます。

竹内好は、魯迅研究で広く知られる中国文学者ですが、憲法に関しても「私たちの憲法感覚」などのテクストを残しています。1960年の新日米安全保障条約締結に際しては、教職を辞して抗議の姿勢を示しました。彼の憲法批判が安保闘争の最中に行われたことは、民衆が運動を通じて憲法を主体化していかなければならないという彼の主張を裏付けています。

王先生は、文学者から発される憲法論として、竹内好の議論を取り上げています。

王先生によると、竹内好の問題意識は、民衆と戦後憲法の距離にあります。

戦後憲法は、アメリカGHQが作成に携わった外来的なものでした。

たしかに、私たちの所感としても、憲法が表現する「普遍的な原理」は、我々の生活から少し離れたものであるような気がします。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2021 王欽

そのように、憲法が表現する「人類の普遍の原理」と、民衆の大日本帝国主義から敗戦までの「具体的な経験」の間に齟齬が生じてしまったのです。

そして、このような距離ないし齟齬の克服のためには、「憲法というテクストを民衆が内在化する」ことが必要だと竹内好は主張します。

これこそが、憲法を育てることに他なりません。

すなわち、憲法を守ることは、憲法の起草者の意思や意図を守ることではなく、憲法のポテンシャルや精神を守ることにあります。

そして、そのためには、民衆が、憲法の精神を自分のものとしていくことが必要なのです。

憲法を育てるために私たちができることとは

「昨今の改憲に関する議論は、私には関係ないや」、と思った方、本当にそうでしょうか?

王先生は、竹内好のテクストを基に、「憲法は、民衆に内在化され主体化されることで、はじめて、単なるテクストではなく、それ自体が生命を持つようになる」と言っています。
しかし「憲法を内在化して育てる」といっても、具体的に私たち民衆は何をすればよいのでしょうか?
その一例として、デモに参加することが挙げられるのではないか、と王先生は仰っています。

我々は、どのようにして「憲法を育てる」ことができるのか、王先生と一緒に考えてみませんか?

今回紹介した講義:30年後の世界へー学問とその”悪”について(学術フロンティア講義)第12回 私たちの憲法”無感覚”-竹内好を手がかりとして

<文 / 島本佳奈(東京大学オンライン教育支援サポーター)>