皆さんは日本人の死因として30年以上にわたり第1位となっている病気が何か、ご存じでしょうか?
それは「がん」です。
現在も日本社会では高齢化に伴ってがんによる死亡者数が増え続けています。
一方で 、 診断には時間もかかり医師の数や労働にも限界があります。
そんな課題に対して新しい技術をもって立ち向かい、研究者たちはがん診断装置の開発に取り組んできました。
研究者たちのたゆまぬ努力によって医療は日々進化し続けているのです!
しかし、その新しい医療が社会に届くまでにはどのようなことが起きているのでしょうか。
ということで今回の講義は2部構成!
まず、がん診断装置の開発を例に医療機器開発の道のりについてお話があります。
装置開発には医学に関わらず機械学習といった他分野領域も関わっています。
そのため後半では機械学習やその概念に関して説明します。
医療機器開発と機械学習の両面について学べる講義です。
第1部 データサイエンスの医療への応用
まず竹田扇先生から、今まさに開発しているがん診断装置の紹介があります。
今回紹介される装置ではがん診断にかかる時間を短くするため、質量分析と機械学習を融合した装置の開発に取り組んでいます。
質量分析とはタンパク質を調べるための技術として開発されたもので、2002年には田中耕一先生がノーベル賞を受賞しています。
質量分析を用いることで患者の組織の状態のデータを得ることができます。
例えばがん組織の場合には、データのある部分に山が見られます。
このことから、計測データを用いて組織のどこががんなのか診断することができます。
しかし、このように質量分析の計測結果を使うだけでは単純にこの山があればがんであると見ているだけで新しさはありません。
じゃあどうするの?ということで機械学習を用います。
通常の研究では、がん組織のデータに特徴的な値があると仮説を立て検証します。
その仮説が正しければ、その特定の値をがん診断に使おうとなります。
しかし、がん診断のような生体に関することは複雑なデータ構造を持っています。
そのため、測定データの特定の部分だけではなく、その他の目立たない部分も最終的な診断には必要であると考えられます。
実際に医師が診断するときにも、ひとつの値だけではなく、その他の総合的な経験と直感が大切です。
そこで機械学習を用い、生体のような複雑なシステム全体を把握するように解析することで、下の図のような、見た目はよく似ているデータでもがんかそうでないか判別をすることができるのです。
第2部 機械学習
続いて田邉國士先生による機械学習と統計科学の説明です。
機械学習やAIといった言葉はよく耳にしますね。
AIが囲碁の名人にも勝ったというニュースを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
しかし、その機械学習とは実際にはどのように行われているのでしょうか。
次のような質問に、講義を通して答えてくださるようです。
これまでの科学は、ニュートン-デカルト・パラダイム(仮説演繹法)に基づいて発展してきました。
これは、何か現象があったらその原因となる要素を見つけて名前をつけたりどういう因果関係なのか推論したりしていくことです。
このような考え方は力学のような単純な構造の分野では役に立ちます。
しかし、医学は何千何百という様々な因子が影響した結果に立ち向かわなくてはなりません。
がんのDNA変異の機序も完全には分かりません。
ここで登場するものが機械学習です。
この機械学習がニュートン-デカルト・パラダイムを覆すものなのです!
生体現象のように、単純な因果関係とみなすことが難しく、多様な要素が絡んだ対象を考える際には、機械学習が適しています。
機械学習ではデータを入力することで、データにある規則や構造を人間が介入せずに推論することができます。
そうすることで、人間には因果関係が複雑で予測不可能な現象の予測が可能となるのです。
まとめ
がん診断装置を開発するためには医学だけではなく、機械学習のような他分野領域の研究も関わっています。
しかも、がん診断装置の実用化に向けて既に10年以上かかっているという説明が講義内でもありました。
開発にあたって分野を横断した協力や、産学官連携により少しずつ進んできたことが分かります。
非常に長い道のりです。
この長さは皆さんの想像通りでしょうか。
それとも想像より長いでしょうか、短いでしょうか。
こうして開発された装置も様々な試験に合格しないと私達のもとには届きません。
長い道のりを経て、初めて社会に医療が届けられるのです。
詳しい開発の内容や機械学習の解説はぜひ講義でご視聴ください!
今回紹介した講義:新しい医療が社会に届くまで ~データサイエンスが支える健康社会~(学術俯瞰講義)第9回 質量分析と機械学習を融合したがん診断支援装置の開発:学際的研究から産学連携へ