自己(私)をどうやって認識している?【他者というメディア】
2022/04/20

私たちはいつから自己と他者の境界を認識するようになるのでしょうか?
実は生まれたての赤ちゃんは、どこまでが自分なのかあまりよくわかっていません。

今回ご紹介する講義は、「他者」という存在を媒介/メディアとして、

 1. 他者としての自己の芽生え
 2. 他者の眼に映る自己
 3. ”合わせ鏡”としての自己と他者

という3本の柱でお話を展開しています。

1. 他者としての自己の芽生え 

まず他者と自己の関係の一つとして、「他者としての自己の芽生え」があります。
つまり、他者を知ることで初めて自己を知ることができるということです。
例えば、子どもやチンパンジーは鏡に映っている自分を見て、他者から見た自分を意識することができます。

東京大学 UTokyo OCW 朝日講座 「知の冒険」 Copyright 2015, 村本由紀子

その経験を通してはじめて自己と他者を区別することができ、自己を認識できるといいます。
また、新生児がコミュニケーションとしての笑顔である社会的微笑を獲得する過程においても他者に笑いかけ、それが返ってくるという双方向的なプロセスを必要とします。

東京大学 UTokyo OCW 朝日講座 「知の冒険」 Copyright 2015, 村本由紀子


2. 他者の眼に映る自己

他者と自己のもう一つの関係として、「自己の『内なる』心は『開かれた』他者との関係の中で育まれる」ということがあります。
特に、アジアをバックグラウンドに持つ人は自己と他者がより結びついている傾向が顕著に確認できます。
それが実際に研究としても明らかになっています。子どもを対象に、①自分で選ぶ課題、②母親に選んだ課題、③研究者が選んだ課題の3つのうちどれがモチベーションが高く出るか実験が行われました。すると、実際にアジア系の子どもは自分で選んだ課題よりも母親が選んだ課題で最もモチベーションが上がっており、白人の子どもとは対照的な結果となっていました。
この研究結果から、本来義務や賞罰、強制などによってもたらされる「外発的動機づけ」と区別される、「内発的動機づけ」は他者からの影響を受けない個人的な心理プロセスと言い切れないということが分かるのです。

東京大学 UTokyo OCW 朝日講座 「知の冒険」 Copyright 2015, 村本由紀子

同様に自尊心についての実験でも、より親しい他者からどう見られているかということが自分に対する評価に大いに反映されていることが示されました。これらのことから個人的・内的な心理プロセスとして捉えられてきた概念が、実は他者との関係のなかで維持・高揚される、インタラクティブなプロセスかもしれないということが指摘されています。


3. ”合わせ鏡”としての自己と他者

つまり、自己と他者は、合わせ鏡のように互いを移す媒体として機能しているということがわかります。

東京大学 UTokyo OCW 朝日講座 「知の冒険」 Copyright 2015, 村本由紀子

さらに講義では「他者ないし社会に“媒介”されずに定義し得る「自己」はあるのか」、「自己と他者との関係のありように、“文化”による差異はあるのか」というテーマで学生とともにディスカッションを行っています。

ぜひみなさんもディスカッションに参加したつもりで一緒に考えてみてください。

今回紹介した講義:媒介/メディアのつくる世界(朝日講座「知の冒険―もっともっと考えたい、世界は謎に満ちている」2015年度講義)第7回 社会的感性の造形:”自己と他者”という問題をめぐって 村本 由紀子

<文/東京大学オンライン教育支援サポーター