【遠くを見れば過去がわかる?】宇宙はどうやってできたのか
2023/07/25

「宇宙になぜ我々が存在するのか」。

これは、今から紹介する講義のタイトルになっている問いかけです。

誰もが教科書や、図鑑や、テレビや、マンガなど、どこかでふと興味をもったことがあるであろう宇宙。

これまでに多くの人が宇宙の神秘に惹かれ、多くの研究がなされ、様々なことが分かってきました。

しかし、これだけ文明が発達し、研究が進んだ現代でも、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。

今回紹介するのは、様々な物質の不思議について紹介する講義シリーズ『物質の神秘 ― その生い立ちから私たちの未来まで(学術俯瞰講義)』の第1回。村山斉先生による、ズバリ『宇宙誕生』という講義です。

宇宙がどうやってできたのか、どのようにして過去に起きたことを知るのか。一緒に学んでいきましょう!

遠くの星を見れば過去を知れる!?

そもそも地球上で昼と夜があるのも、季節が変わるのも、宇宙規模の現象です。

簡単にいってしまえば、昼夜は地球が自転をしており太陽光の当たる面が変わるから存在するもの、季節は地軸の傾いた地球が太陽の周りを公転しており太陽光の当たり方が変わるから存在するものです。

地球が太陽の周りを楕円軌道で周回していることを示したのが、ドイツの天文学であるヨハネス・ケプラー。

そしてこの公転を物理的に説明するのが、ニュートンによる万有引力の法則です。

東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉

万有引力の式から、質量が大きい物ほど引き付ける力が強いことが分かります。太陽は非常に質量が大きいため、地球はどこかに飛んで行ってしまうことなく、太陽の周りを公転しているのです。

地球以外にも、太陽の引力を受けて運動する天体はたくさんあり、これらをまとめて「太陽系」と呼びます。水星や木星などの惑星は太陽系の有名な天体ですね。

さて、地球から太陽までの距離はどのくらいかご存知ですか?

その距離、何と8.3光分。「光分」というのは光が1分間に進む距離なので、8.3光分は光が8.3分間に進む距離、なんと約1.5億kmになります

光が太陽から地球まで届くのに8.3分もかかるということは、我々が見ている太陽というのは8.3分前の太陽の姿ということになります。光はとても速いので、近くのものを見るときにそのタイムラグを考えることはありませんが、宇宙という広い世界を考えると、光でさえもタイムラグが生じるのです

では、次は太陽系の外に目を向けます。太陽系に最も近い恒星が「Proxima Centauri」という星で、日本語では「プロキシマ・ケンタウリ」などと呼び、4.2光年も遠くにあります。

つまり、この星が我々に見えたらそれは4.2年前の姿を見ていることになります

東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉

このように、遠くの星を見るということは、過去の姿を見ることになります

すなわち、過去の宇宙の姿を知りたければ、遠くの星や銀河を観察すればよいのです

そうなると、最も遠くにある星を観察すれば、それは最も過去を観察していることになる、つまりは宇宙の誕生に限りなく近づくことができると思いませんか?

講義が行われた2013年当時、最も遠くに見つかっていた銀河が下図にある133億光年先の銀河です。実は、現在ではもっと遠くにある銀河が見つかっているので、気になる方はぜひ調べてみてください。

東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉

さて、133億光年より先にある銀河が見つかりましたが、さらに頑張って136億光年先を観察しようとすると、真っ暗なのです。これは技術的に観測ができないのではなく、この時期には星や銀河がなかったからだそうで、「暗黒時代」と言われています。

では、それより昔はどうだったのでしょう。

宇宙は広がっている

その前に、宇宙の膨張について知っておく必要があります。

光は光源が近づいてくる場合、その光の波長が短くなって青く見え、遠ざかる場合その光の波長が長くなって赤く見えます。前者を「青方偏移」、後者を「赤方偏移」といいます。

この現象はドップラー効果と呼ばれます。ドップラー効果といえば、有名なのは音のドップラー効果で、近づいてくる救急車の音は高く、遠ざかる救急車の音は低く聞こえるのは、ご存知の方も多いでしょう。

東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉

先ほど133億光年先の銀河を紹介しましたが、赤く見えます。光のドップラー効果により赤く見えるということから、遠くの銀河は地球から遠ざかっていっているのではないかと言われたのです。

そしてこれは、銀河が動いているというよりも、宇宙が膨張して空間が広がることによってその中にある銀河がそれぞれ遠ざかっているような現象なのだそうです。宇宙は大きさや形が決まった箱のような入れ物ではないということです。

宇宙の膨張に伴い、光も引き伸ばされます。また、光などの電磁波は波長が長いほどエネルギーは小さくなります。したがって、宇宙が膨張して光が引き伸ばされるほど、その波長は長くなり、持っているエネルギー、つまり熱が小さくなるので、宇宙の温度が下がって冷たくなります。

裏を返せば、かつて宇宙が小さかったころは、光がそこまで伸びないので、光の波長が短く、エネルギーが大きいため、とても熱かったことになります。

この非常に小さく、高温・高密度の状態をビッグバンと呼び、そこからどんどん膨張していきました。これが現在の宇宙の始まりとされているのです。

東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉
東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 Copyright 2013, 村山斉

宇宙の誕生:ビッグバン

ビッグバンの証拠を最初に見つけたのは、宇宙の研究者ではなく、二人の電波技師だったそうです。

彼らはどうしても通信に入ってしまうノイズが宇宙から来ているのではないかと思い、大学の先生に相談しました。

宇宙の始まりがビッグバンだったとすると、できたてのころは熱くたくさん光を発していたことになり、それが宇宙の膨張により引き伸ばされて赤くなり、赤外線になり、電波になって今もあるはずだ、と思っていた大学の先生は、このノイズの発見をビッグバンの証拠であると言いました。

その後も色々な発見によりビッグバンが起きたことが裏付けられていきます。

講義で紹介されているそれらの発見の中でも、ノーベル賞も受賞しており村山先生の同僚だというジョージ・スムート先生のおっちょこちょいエピソードが面白いので、気になる方はぜひ講義を見てみてください。

まだまだ未知な宇宙

ビッグバンの証明がなされてきたと書きましたが、ビッグバンが起きた頃は非常に高温で、物質がプラズマという状態にあり、光を通しにくいので、実際の宇宙からその頃の様子を観測するのは難しいそうです。

そのため、粒子加速器という装置を使って、実際にビッグバンのような現象を起こすことでその様子を観察するという研究が行われています。

ここまで、宇宙の誕生について紹介してきました。しかし、この記事を読んでいても「銀河とは何なのか」「そもそもなぜ宇宙は膨張しているのか」といった更なる疑問も浮かんできます。この記事では講義の、そして宇宙の誕生のほんの一部しかカバーできていません。また、そもそも分かっていないことも数々あります。今回紹介した『宇宙誕生』に続き『物質誕生』『銀河誕生』といった講義もあります。どれも村山先生の軽快な語りが非常に分かりやすいので、ぜひご覧ください。

今回紹介した講義:物質の神秘 ― その生い立ちから私たちの未来まで(学術俯瞰講義)第1回 宇宙誕生 村山 斉先生

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。 

<文/大澤 亮介(東京大学学生サポーター)>