みなさんは,地球温暖化についてどれくらい理解しているでしょうか。
地球温暖化は現代社会における最も重要なトピックの1つです。
最近も,地球温暖化に関する先駆的な研究を行った真鍋淑郎先生のノーベル物理学賞受賞のニュースを始め,SDGs,国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」,異常気象など,様々な話題を通して見かけるようになりました。
もはや,「地球温暖化」という言葉を知らない方はいないのではないでしょうか。
そして多くの人が,地球温暖化が「人為起源の温室効果ガス排出量増加に伴って地球の平均気温が上昇すること」だということを知っていると思います。
では,あえて問います。
地球温暖化は本当に人間のせいなのでしょうか。なぜそんなことが分かるのでしょうか。
地球が暖かくなることが,なぜ大きな社会問題になるのでしょうか。
もはや当たり前となっている社会常識について,深く理解している方は実は多くないのではないでしょうか。
本講義では,住明正先生と一緒に,
- 地球温暖化がどのようにして理解されているのか。
- 地球温暖化に伴ってどのようなリスクが生じるのか。
について,学んでいきます。
身近な社会問題でありながら,普段触れることない専門的な内容について,一緒に学んでみませんか?
気候形成メカニズムとその研究
地球温暖化を理解するには,まずはじめに現在の地球の気候がどのように形成されているのかを考える必要があります。
住先生によると,ある場所における「気候」とは,そこでの気象や海象の平均的な特徴のことを表し,温度と降水量によって特徴づけられます。
「南極は赤道域と比べて寒い」や,「日本の6,7月は雨がよく降る」などといったことです。
この地球の平均的な温度の構造は,主に太陽放射と地球の赤外放射のバランス,つまり,地球の外から入ってくるエネルギーと地球から出ていくエネルギーの釣り合いによって決まっています。
ここで言う「地球」とは,地球大気の上端から地面・海までのことを指します。
そして,人間活動によって大気の組成が変化することが,このエネルギーのバランスの仕組みをちょっとだけ変えており,その結果生じているのが地球温暖化ということになります。
宇宙から入ってくる太陽光エネルギーはどのような経路をたどっていき,どのように再び宇宙に放出されるのか。
そのメカニズムはどのようにして理解されるのか。
住先生の授業から学んでみましょう。
授業の途中では,昨年ノーベル物理学賞を受賞された真鍋先生の研究も紹介されています。
※授業当時の2012年にはまだ受賞されていません。
気候モデル
自然科学は仮説の検証のために実験を行うことが多々あります。
しかし,気候の研究対象は地球です。実験室の中に地球をまるごと入れて扱うわけにもいきませんから,実験を行うことは困難です。
そこで,コンピュータの中に仮想的な地球を構築し,温度や風などの物理量を計算することで雲や台風などあらゆる気象をシミュレーションする,気候モデルというツールを用います。
これは日々の天気予報にも用いられているのと基本的には同じものです。
気候モデルを駆使して様々な実験を行い,気象・気候形成のメカニズムの理解を進めていくことが,地球温暖化の理解のためにはとても重要です。
住先生の本講義では,気候モデルを用いて過去の気候を再現する実験が紹介されています。
その結果によると,最近の急激な温度上昇は人間活動の影響を加味しないと再現されないことが分かっているそうです。
これが,人間活動が近年の温暖化の要因であることの一つの根拠になっています。
気候変化の影響
地球が温暖化することが分かっても,これだけでは人間社会に対するリスクを考えるには不十分です。
なぜなら,地球規模で温暖化することが分かっても,その温暖化の進み具合や,”1000年に一度の豪雨”のような極端現象の発生頻度は,地域によって異なるからです。
したがって,空間解像度の高い情報,すなわち地域ごとのより細かな情報が必要になってきます。
授業では,この”高解像度化”に関する手法が紹介されています。
地球温暖化の地域ごとへの影響の推定,特に稀にしか起きない極端現象の推定は簡単ではありません。
例えば,1000年に1回あるかどうかの現象が今後温暖化によってどのように変化するかということを,100年間のデータから推定することは非常に困難です。
今日も最前線で研究されています。
温暖化して何が悪いか?〜リスクに対する考え方〜
”温暖化したらまずい”というのは現代社会の常識になりつつありますが,具体的に何が問題なのでしょうか?
例えば,生態系が乱れることが問題だと指摘する人がいる一方で,生態系は元から変化し続けているのだから問題ではないと捉える立場の人もいるかもしれません。
誰にとって,何が,どのように問題なのかということを具体的に考えていくことで,リスク対策に対してより本質的な視点が見えてきます。
住先生は,様々な問題があるだろうが,本音としては経済的な損害が一番の問題なのではないかとおっしゃっています。
現在の様々な投資は現在の気候を想定しながら行われており,急激な気候変化は投資効率が悪くなったり無駄が増えてしまうからです。
しかし,地球温暖化に伴うリスクの問題には様々な価値観が重なり合っており,それぞれのリスクを比較するための統一的な尺度がお金以外に存在しないため,「非常に難しい問題である」と住先生は何度も口にします。
また,100年後の地球の平均気温をなるべく上げないようにお金を使うよりも,直近10年間の景気のためにお金を使えという意見もあります。
それでも,一見対立するような2つの問題の中にも,なんとか共通の解決策を見つけ出し,10年後の我々と100年後の人たちの両方にとって有益な対策がないか考えていくことが重要であろうと住先生は訴えます。
最後に,最悪の事態が起きる前に合理的に判断することの大切さ,そのためには科学の知見を適切に用いることが重要だということをおっしゃっていました。
その後,質疑応答に移り,温暖化に関する情報をどのように発表するべきか,市民が温暖化を止めるための最善の方法など,様々なトピックについて学生さんと意見を交わされて,授業は終了です。
まとめ
この記事では,講義のほんの一部しかご紹介できていません。
しかし,ここまで読んでいただいた方は,地球温暖化について新たな視点を持ったのではないでしょうか。
「より詳しく地球温暖化の研究について知りたい!」「地球温暖化について自分はどう考えればよいのか考えたい!」と思った方は,ぜひ住先生の授業動画を視聴してみてください!
今回紹介した講義:リスクと社会(学術俯瞰講義)第4回 地球温暖化とそれに伴うリスク
< 文/佐藤 瞭 (オンライン教育支援サポーター) >