突然ですが、簡単な実験をご紹介します。
丸い物体に光があてられており、スクリーンに丸く黒い影を作っています。ものに光が当たると反対側に影ができる、というのは私たちの日常でも見られる身近な現象ですね。
では、クイズです。スクリーンを少し遠ざけたときに、映し出される影の形は次の4つのうちどのようになるでしょうか?
正解はCです!なんと、影の中心に光が差し込むという不思議な結果になるのです。実験そのものはシンプルですが、答えはわからないという方は多いのではないでしょうか?
光はわたしたちの身の回りにありふれていながら不思議な性質を持ち、さまざまな直感に反した現象を引き起こします。
例えば私たちの目が色として捉えているものは、光がどれくらい激しく振動しているかという情報そのものだったりします。知らず知らずのうちに、私たちは光に載せられた情報を受け取っているのですね。
このように、光と人間の間には切り離すことのできない強いつながりがあることは言うまでもないでしょう。
光の不思議な性質についての長い論争を経て科学は進歩し、現代の光科学は光のさまざまな性質を解明することに大きく成功、さらには制御することに一定の成果をあげています。これにより超高速通信・精密計測をはじめとしたさまざまな新技術が登場し、芸術分野においては表現の新しい可能性がもたらされることになりました。
東京大学でも、理学部・工学部を中心に光技術の最先端の研究が行われています。いまだに底知れない可能性を秘める光技術は、これからも私たちの生きる社会に革新をもたらし続けることでしょう。
皆さんも、光が私たちの社会にもたらす技術革命をより深く理解するために、光について詳しく知ってみませんか?
今回紹介する学術俯瞰講義「光の科学 – 未来を照らす究極の技術とアイデア」では、本学や企業等で最先端の研究を行う研究者によって非常にわかりやすく本質的な光についての講義が展開されました。先ほど出題したクイズも、こちらの講義動画で紹介されていたものです。
第1回の「光科学への扉」では、本学第30代総長を務められた五神真先生が教壇に立ち、簡単な実験を交えながら光科学の紹介を行っています。
植物の葉っぱがなぜ緑色なのか、みなさんは知っていますか?その答えはこの第1回の講義で明かされることになります。この解説は実験を見るとより実感できるので、ぜひUTokyo OCWの動画でご覧ください!(第1回 48:54〜)
第2回の「光学と力学」では、井上慎先生が光の不思議な性質について詳しく解説されました。(第2回 16:10〜)
この講義では光の基本原理について解説されているのですが、実は、光には局所的な基本原理と大局的な基本原理があります。それぞれ見ていきましょう。
光の局所的な性質としては、媒介する物質によってその進行速度を変えるという性質があります。例えば、光は水やガラスの中を進行することができますが、水やガラスの中を進行する光は真空を進む時より少し遅くなります。この性質により、異なる物質の境界面に斜めに入り込んだ光が屈折することを導くことができます。屈折の具体的な角度は「スネルの法則」と呼ばれる法則から計算できます。
光の大局的な性質としては、スタートとゴールを決めるとその間で「光路長」と呼ばれる特別な距離(言い換えれば、光が感じる経過時間のようなもの)が最も短くなる道を選び進むことが知られています。これは「フェルマーの原理」と呼ばれます。みなさんは目的地まで移動するとき交通費や移動時間をなるべく抑えるためにナビを使用することは多いと思いますが、光は最もよいルートを自分で発見できるということですね。
専門的な学習をすると、フェルマーの原理からスネルの法則の数式をきちんと導くことができるようになります。これはつまり、大局的な基本原理から局所的な基本原理を導出することができるというものです。
この話に関連して講義内で紹介された面白いお話があるので、こちらの記事でも紹介しましょう。フェルマーの原理によれば、光はスタートとゴールを決めればその間で経過時間が最も短い道を選ぶと説明しました。では、こういう状況を考えてみましょう。
家がスタート、旗がゴールだとします。光をランナー(走者)、真空を砂浜、途中に入ってくる媒質を湖として例えます。ランナーはスタートからゴールまで最も早い道を通って向かうことを考えるのですが、残念ながら途中に湖があります。
ランナーは走ることも泳ぐこともできますが、泳ぐと走るよりも少し速度が落ちます。さて、どのように進めば最短の時間でゴールまで辿り着けるでしょうか?
まずは単純なセッティングとして、湖が横方向に無限に続く長方形だとしましょう。この場合は家と旗を結ぶ直線を進めば最も時間を節約できますね。
では、ランナーに少し意地悪をしてみましょう。最短経路のところだけ湖を縦長にして、湖に入ったら他の経路よりも時間がかかる状況を作ってみます。するとランナーはこの経路を嫌って、少し横の経路を通ります。
このようにしてずれた経路についても同じように湖を変形することで妨害して、最終的にどの経路を通っても同じだけ時間がかかる湖を作ります。すると、湖は楕円のような形になりますね。さて、ランナー・砂浜・湖の例えを光・真空・媒質に戻して考えてみると、実はこれこそが凸レンズだったのです。
凸レンズの形状ですが、このような背景があってこその膨らんだ形状だったのですね。凸レンズについては小学校の理科でも習うと思いますが、どうしてこのような膨らんだ形状をしているのかについて、疑問に思っていなかった方や、疑問に思っても考えることをやめた方は多いのではないでしょうか?
今回ご紹介している講義「光の科学」は、このほかにも驚きの新知識が盛りだくさんの講義です!
ほかにも、第2回では下図のような変わった形をしたレンズが存在することと、それがどうして必要なのかの説明がありました。メガネのレンズと全然違う形をしていてびっくりしませんか?この説明は光学に詳しい方も楽しめるポイントだと思います!(第2回 30:04〜)
ちなみに、冒頭で紹介した実験も第2回の講義で詳しく説明されます。なぜそのような現象が起きるのか、ぜひ本編で確かめてみてください!(第2回 54:34〜)
今回紹介した講義「光の科学−未来を照らす究極の技術とアイデア」は、光学や物理学に全く馴染みのない方でも気軽に聞けること、小難しい数式に頼りすぎないことが魅力です。それでいてノーベル賞の解説までカバーしており、内容について詳しく知っている人にもおすすめできる講義です。(第1回 1:16:12〜)
今回は、学術俯瞰講義「光の科学 – 未来を照らす究極の技術とアイデア」の第1回と第2回を中心にご紹介しました。第3回以降も、内容が整理されたわかりやすい授業が展開されています。
第一線で活躍する本学の世界的研究者による講義が聞けるのはUTokyo OCWならではの魅力ですので、ぜひ本編をUTokyo OCWでご覧ください!
今回ご紹介した講義:光の科学−未来を照らす究極の技術とアイデア(学術俯瞰講義) 第1回 光科学への扉
五神 真先生
光の科学−未来を照らす究極の技術とアイデア(学術俯瞰講義) 第2回 光学と力学 井上 慎先生