小さくても侮ることなかれ!微生物の世界!(「人類に役立つ微生物たち――いろいろな境界線から微生物を語る――」大西康夫先生)
2025/09/10

私たち日本人は、世界の中でも特に発酵食品に囲まれた食生活を送っています。納豆、日本酒、醤油、味噌…

そんな「発酵」の鍵を握っているのが微生物です。でも、食べ物がカビたり腐ったりするのも微生物の仕業。

「微生物」とは一体どのような存在なのでしょうか。

今回は、そんな微生物をテーマとした講義「人類に役立つ微生物たち――いろいろな境界線から微生物を語る――」をご紹介します。講師は東大農学部の微生物学系研究室の歴史を受け継ぐ大西康夫先生。

「境界線をめぐる旅」と題する講座の一部として、「発酵と腐敗の違い」「人類の敵か役立つか」「普通の菌か病原体か」といった「境界」に着目しながら行われた講義です。

では、さっそく微生物について学んでいきましょう!

そもそも微生物って何?

そもそも微生物とはどのような生物なのでしょうか。

講義では「小さすぎて肉眼では、はっきりとは認識できない生きもの」と紹介されています。肉眼では見えなくても顕微鏡では見えるので、研究もできるわけです。

有名なのは小学校などでも習うゾウリムシやミドリムシなど。

東京大学 Todai OCW 朝日講座 「知の冒険」Copyright 2013, 大西康夫

また、普通は肉眼で見ることのできない微生物も、集まったり広がったりすると見ることができるようになります。

その例がカビなど。

さらに、皆さんおなじみのキノコも、カビの子実体(胞子を作るための構造体)の大きなものであるため、微生物であると言えます。

微生物学の歴史

さて、ここからは微生物についてより詳しくなるために、微生物の歴史、そして人間と微生物の歩みの歴史を学んでいきましょう。

原始微生物、つまり最初の微生物が誕生したのが36億年前です。

そしてさらに11億年後の27億年前に、ラン藻という微生物が誕生します。ラン藻はシアノバクテリアとも言われ、光合成を行い酸素を生産します。

余談ですが、シアノバクテリアが活動の過程で海中の泥や砂粒を取り込んで固めてできた層状の堆積物は「ストロマトライト」と言われています。化石となったストロマトライトは世界各地の地層で発見されており、世界遺産にもなっているオーストラリアのシャーク湾など、一部の場所では現生しているものを見ることもできます。

ストロマトライト

さてその後、真核生物という少し複雑な微生物が出現し、9億年前に多細胞生物が出現します。

何億年前と言われても昔過ぎて、私たちにはなじみがないということで、大西先生が生命の歴史を1年に例えた年表を作成してくださっています。

東京大学 Todai OCW 朝日講座 「知の冒険」Copyright 2013, 大西康夫

原始微生物が誕生したのが元日だとすると、先ほどご紹介したラン藻が誕生して、酸素が生産されだしたのは四半期が経過した4月ごろ。皆さんが大好きな恐竜は12月に繁栄し、クリスマスには絶滅しました。人類が出現するのは大晦日で、紅白歌合戦も佳境を迎える23時半ごろ、現生人類が出現したそうです。

微生物の歴史が人類や恐竜の歴史に比べどれだけ長いか、イメージがつかめましたか?

人類と微生物

さて年が変わる直前に人類が誕生したわけですが、人類が微生物を認識できるようになるのはさらに先のことです。

しかし、人類は微生物を認識するはるか前から、経験的に微生物を利用してきました

代表的な例が酒や食べ物。酒の起源は神話の時代に遡り、日本では古事記に登場し、メソポタミアのビール製造や旧約聖書のワインなど、世界中で微生物が利用されてきました。

そんな微生物を初めて見た人間がレーウェンフックです。

東京大学 Todai OCW 朝日講座 「知の冒険」Copyright 2013, 大西康夫

レーウェンフックは自ら発明した顕微鏡を用いて微生物を観察したことから、微生物学の父と言われています。これは17世紀の出来事。

しかし、この段階ではまだ、微生物の役割までは解明されていませんでした

微生物の機能の発見で知られているのが、フランスの生化学者であるパスツールです。彼は19世紀に、実験により生物の自然発生説を完全に否定したり、発酵の過程における微生物の役割を証明したりしたことから、近代微生物学の祖とされています。

また、同時期に活躍したドイツの医師・細菌学者であるコッホは、病原微生物を発見したり、微生物の純粋培養法(特定の微生物だけを人工的に増殖させる方法)を確立したりしたことから、彼もまた近代細菌学の祖とされています。

このころようやく、微生物の働きを人類が理解できたのです。

ここで東大にも目を向けてみると、大西先生も所属している農学部で、1900年に初めて微生物に関する講座が開講されました。大西先生はそんな微生物系研究室の系譜を受け継いでいます。

東京大学 Todai OCW 朝日講座 「知の冒険」Copyright 2013, 大西康夫

そんな研究室の系譜の三代目に当たる坂口謹一郎先生はお酒の博士としても知られています。

特に、沖縄で、泡盛の製造に欠かせない黒こうじ菌が第二次世界大戦で全滅してしまった際、坂口先生が東大で保存していた黒こうじ菌により再び泡盛製造が始められたというエピソードが有名だそう。その縁で、東大では「御酒(うさき)」という泡盛を販売しています。(本郷キャンパス構内のお店やオンラインでも購入できるので、泡盛好きの方はぜひ!)
https://utcc.u-tokyo.ac.jp/user_data/sake

おわりに

さて、微生物の歴史と人類とのつながりを簡単にご紹介しましたが、講義ではここから、最初に紹介したような様々なトピックで微生物について説明されています。

講義終盤には遺伝子組換えについてのお話や受講生からの意見などもあり、倫理的な問題といった課題についても触れられています。

また、大西先生は講義中盤と最後に坂口謹一郎先生の「微生物に頼んで裏切られたことはない」という言葉を紹介しています。

微生物が敵か味方かを判断するには、各々が微生物のことを良く知っておく必要があるでしょう。ぜひ、皆さんも講義を視聴して、微生物の世界に飛び込んでみましょう!

<文/おおさわ(東京大学学生サポーター)>


今回紹介した講義:境界線をめぐる旅(朝日講座「知の冒険—もっともっと考えたい、世界は謎に満ちている」2013年度講義) 第8回 人類に役立つ微生物たち――いろいろな境界線から微生物を語る 大西康夫先生

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