現代アートを通して見えてくること。
2024/10/24

現代アートというと、興味がある方は美術館に展示を見に行ったりするかもしれませんが、興味のない方にとってはほとんど触れる機会がなく、「そもそもどうやって鑑賞するものなのかよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。今回は、ご自身もアーティストであるとともに、現代美術批評家として本を出版されている山本浩貴先生の講義動画を紹介します。

山本先生は講義冒頭で、「現代美術の方法論はあらゆる人にとって有効な手段となり得る」とお話されています。

UTokyo Online Education 学術フロンティア講義 2023 山本浩貴

その中で、山本先生は現代アートを「来るべき世界に想いを巡らすために大切な想像力に深くかかわる実践」であると定義されています。

現代アートとは何か?

一般的に現代美術は広い意味で20世紀以降の美術とされていますが、現代美術の英語訳である、「コンテンポラリー・アート」という言葉は1990年代以降の美術を指します。講義内で現代アートとして言及されている内容や、引用される現代のアーティストたちの作品、一般に現代アートとして美術館などで発表されている多くの作品はこの90年代以降の「コンテンポラリー・アート」の分類に含まれます。「現代美術」と「現代アート」はほぼ同義ですが、西欧から入ってくる概念を日本語訳したときに、微妙に言葉の意味が日本流にアレンジされているのが実情です。

「現代美術」「現代アート」「コンテンポラリー・アート」と似たような言葉が少しずつ意味を変え、並列的に使用されている時点で、馴染みのない方からすると、どれが何を指すのか訳が分からなくなるかと思います。「現代アートはよく分からない」と感じることは、「普通の感覚で一般的」と山本先生も講義内でおっしゃっています。

それは現代アートが

評価基準が不規則で変わりやすいということ、

絵画や彫刻といった既存の媒体に捉われず、“美しさ”といった美学的価値にも捉われないこと、などが現代アートの特徴として挙げられ、分かりにくさの要因となっているのかもしれません。

現代アートは目に見える美学的価値よりも、その内容、作品のアイディアに重きが置かれているのです。

現代アートと社会とのかかわり

この講義は2023年に行われたものですが、2024年現在も論争の的となっている、環境活動家たちによる現代アートの文脈でのパフォーマンスが紹介されています。みなさんも「JUST STOP OIL」という団体をニュースやインターネットの記事などで見かけたことがあるのではないでしょうか。

講義内では、その手法の有効性や是非については論じていませんが、“美術作品を棄損する”という表面上の行為にのみ着目することは狭い見方に陥ってしまう、と山本先生はおっしゃいます。純粋な美や真の芸術的価値といったものを社会や政治的ネットワークから切り離して論じることは不可能であり、その社会や政治、すなわち外部の世界と現代アートは密接にかかわっています。

Activists threw soup at a Van Gogh painting in London. They were protesting new oil and gas production. Image Source: Just Stop Oil (CC BY-NC 4.0 ) https://juststopoil.org/news-press/

本講義は、「空気の価値化」というテーマの講義シリーズのうちの1つであるため、現代アートの手法を用いて“見えない空気を可視化”している作品を紹介しています。アーティストの小泉明郎さんの作品「若き侍の肖像」(2009)と「夢の儀礼 《帝国は今日も歌う》」(2017)や上村洋一さんの作品「HYPERTHRMIA―温熱療法」(2019)を紹介しています。通常、OCWでは著作権の関係により講義内で使用された映像をインターネット上に公開することが難しいのですが、本講義では「夢の儀礼《帝国は今日も歌う》」と「HYPERTHERMIA―温熱療法」の映像の一部を公開しています。そういった点でもこの講義動画はおすすめとなっています。

小泉明郎「夢の儀礼《帝国は今日も歌う》」2017,  写真 : 椎木静寧

また、本講義動画は最後の質問時にOCWスタッフも質問をしています。「学術フロンティア講義」という学内の授業ではありますが、開かれた議論の場を作るというファシリテーターの石井先生のご意向により、学生以外の人でも、積極的な参加が受け入れられる”空気”がこちらの講義シリーズにはあり、本講義のみならず「空気の価値化」シリーズ全体を通してのご視聴をおすすめします。

最後に・・・

講義内で、現代アートの起源を語るうえで欠かせない作品としてマルセル・デュシャンの「泉」という作品が紹介されます。著作権の関係上、画像を掲載することができないのですが、デュシャンの別の作品で同じく有名な通称“大ガラス”「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(1923)のレプリカが東大の駒場博物館に収蔵されていることも有名です。

オリジナルはフィラデルフィア美術館に収蔵されていますが、レプリカは世界に3つしかなく、そのうちの1つである“東京バージョン”が東大内で鑑賞できるのです。無料で一般公開されているので、ぜひ一度、駒場博物館を覗いてみてはいかがでしょうか。講義内でも山本先生がお話しされている、イメージを通して思考すること、想像力の実践について、作品鑑賞を通してその端緒に触れてみることができるかもしれません。

今回紹介した講義:学術フロンティア講義「30年後の世界へ― 空気はいかに価値化されるべきか」第7回 現代アートにおける空気の可視化 山本 浩貴先生

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。

<文/みの(東京大学学生サポーター)>