【ことばって力だ】カタチないものの可能性
2024/11/14

「ことば」は我々にとって必要不可欠ですが、普段はあまり意識しないで自然に使っています。しかしながら、「ことば」には単なるコミュニケーションの道具という垣根を超えた、多面性を持ち、大きな力を持っているのです。

今回ご紹介する講義では、社会学者の佐藤健二先生が、「ことば」について、「身体性」「社会性」「空間性」「歴史性」の4つの観点から詳しく解説しています。

普段から使っている「ことば」について、佐藤先生と考えていきましょう。

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 健二

人類の「ことば」獲得の意義

佐藤先生は「ことば」を、動物としての人間が最初に獲得した道具であり、

・カタチを持たないこと

・可能性に満ちていること

以上の点において特異性があるとおっしゃっています。ただ、道具といっても「ことば」には形はありません。しかし「ことば」を使うことによって、概念やイメージを掴んで分けたり、組み立てたり、他者に渡したりすることができるという点で、「ことば」は道具であると佐藤先生は定義します。

また、文学、哲学、科学、歴史など、今日の人間の発展の礎となる学問も「ことば」無しには存在し得ませんでした。佐藤先生は「無形の可能性に満ちた不思議な道具」であることに人類の「ことば」獲得の意義があると語っています。

この特異な道具を用いて、今現在、私たちが享受している文化を作り上げてきたのです。

「ことば」は社会だ

言葉は伝えるための道具の役割もありますが、他にも「ことば」は脳に近い役割も持っている道具だと佐藤先生は言います。ここでは、「ことば」の身体性と社会性について解説していきます。

「ことばが通じる」ということの段階性

「ことば」が通じることには大きく分けて2つの段階があります。それを理解するには、声のメカニズムに注目するとわかりやすいでしょう。

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 健二

ステップ1:身体の共振と空間の共有

「通じる」ということに焦点を当てるとなると「ことば」を受け取る他者に注目するべきであると考えがちです。しかしながら、「通じる」という現象は他者のみならず、自己と他者の両者が関わっているものなのです。声は「振動」として、他者の耳に届き、受け取られるわけですが、このとき

・他者の耳の「振動」

・自己の耳の「振動」

これら両方が空気を媒介として同時に起こっているのです。言葉を話すとき、その声を話者自身も自分の耳で聞いています。このとき話し手と聞き手の間で同じ声を聞いており、両者の鼓膜の間で共振が起きています。

声のメカニズムについて身体性を中心にして考えると、

・自己と他者の身体の共振と、空間の共有が声という現象によって繋がっている

・さらに、その声を自己も聞いている

これが、「ことば」が「通じる」という現象の基礎であると先生はおっしゃっており、表層的な「ことばが通じる」もしくは「ことばが通じない」などの意味の共有はその後に起こるものだそうです。

ステップ2:意味の共有

私たちが一般に考える「ことば」が「通じる」というのは、「意味の共有」のことでしょう。それはステップ1でご紹介した身体の共振と空間の共有の中で起きていくものなのです。

ことばの意味は、身体の共振と空間の共有の中で調整されていくのだと先生はおっしゃっています。さまざまな状況、経験が作用しながら、安定した意味が形成されていくそうです。そのため、脳などが最初からことばに意味を込めているのではなく、その状況の中で意味が共有可能なものとして発生するのだそうです。このようなメカニズムを考えた方が、「声の身体性と言語の社会性を繋げることができる」というメッセージを先生は残しています。

「ことば」は何のためにあるのか

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 健二

最後に、ことばの存在意義について考えてみましょう。皆さんは「ことばは何のためにあるのだろう」と考えたとき、どのような答えが思い浮かぶでしょうか。おそらく多くの場合、最初に思い浮かぶことは

・伝達の役割

ではないでしょうか。

もちろん、伝達の役割といった側面は言葉の存在意義のひとつであると言えます。しかしながら、それだけではなく、もう一つ重要な役割を担っています。それは、

・思考の手段

としての役割です。ことばは、自分の内面・思考を作り上げる手段であり、伝えるだけではなく、考える道具なのです。この二重性が、言語が、人間の社会、あるいは人間の存在にとって、他の動物とは違う内面世界、そして外の世界における社会関係を生み出してきた非常に重要なメカニズムであると佐藤先生は考えています。 

「ことば」は思考するための手段という点において、もうひとつの脳であるといえるでしょう。

ことばの不思議

佐藤先生は「ことば」は自分の考えを伝えるための道具である手であり、自分が考えを深めるための道具である脳であると指摘しています。「ことば」は日々の生活の中で未知のものに遭遇したときに、役に立つであろうと先生はおっしゃっています。

ことばには想像を超える力が潜んでいます。今回は、その社会性に焦点を当てて取り上げましたが、講義動画では他にもさまざまな特性が紹介されています。

私たちの生活に欠かせない「ことば」について、改めて考えてみませんか?続きが気になる方はぜひ講義動画をご覧ください。

今回紹介した講義:社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)第4回 ことばの不思議 -身体性・社会性・空間性・歴史性  佐藤 健二先生

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。

<執筆:悪七一朗(東京大学学生サポーター)>