突然ですが皆さん、東京大学工学部に所属する学生のうち、女性の割合はどれくらいだと思いますか?
なんと、約12%。同じく理系の理学部でも約13%とかなり低くなっています。
そもそも女性の割合が全体でも2割強ほどと少ない東京大学ですが、理系は特に女性が少ないことが分かります。
今、この記事を読んでいる人のうち、どれだけの人が理系に女性が少ないことに対し、違和感を持っているでしょうか。
世界に目を向けてみると、これほど理系に女性が少ないケースは非常に珍しいです。
ではなぜ、日本では理系の女性が少ないのでしょうか。
今回紹介するのは、この問題にアプローチしている横山広美先生の講義です。
横山先生は、数学と物理の専門家が集まるカブリ数物連携宇宙研究機構という東京大学の機関で、科学と社会の認知の違いや、コミュニケーションなどの人社系の分野を専門にしている唯一の研究者です。
タイトルと同じ『なぜ理系に女性が少ないのか』という著書もある横山先生と一緒に、日本における現状と、研究から分かったことを見ていきましょう。
日本はどれほど理系に女性が少ないのか
世界の中で日本は理系に女性が少ないと書きましたが、どれほど少ないのでしょうか。
下の画像はOECD(経済協力開発機構)加盟国の理系の女性率を表していますが、日本が最下位であることが分かります。
「工学・製造・建築」の分野ではOECD平均も26%と低くなっていますが、その中でも日本は16%です。
そして「自然科学・数学・統計学」に関しては、OECD平均は52%と半数を上回っているのに対し、日本は27%と大差で最下位となっています。
中でも、数学や物理学の分野で女性の割合が低くなっています。
下の図は、日本における理学部入学者の女性割合を示しており、2017年は数学・物理学で2割弱となっています。
一方、生物学では約4割となっており、ひとえに「理系」といっても科目により差があることが分かります。
これは他の国でも同じような傾向がみられ、アメリカでも工学・物理学は比較的低い一方、化学などが人気で、生物学では6割近くが女性となっています。
ただ、日本と違い、数学も人気で5割に迫っています。
では、日本の女性は数学が苦手なのでしょうか?
全くそんなことはなく、むしろ世界的にみると日本は男女ともに数学が得意な国だといえます。
図の丸印が男性、ひし形が女性の数学の成績を示しており、見て分かるように男女ともに日本はトップクラスの成績です。
また、各国とも男女にそこまで大きな差がなく、国によっては女性の方が数学の成績が優秀であることも分かります。
2022年にはウクライナの女性数学者マリナ・ヴィヤゾフスカが数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞を受賞したことも話題になりました。
これらのデータを見ても、数学における能力に性差があることは少し考えにくそうです。
能力に差が無いとすると、「理系に女性が少ない」のは、なぜなのでしょうか。
「平等度」と関係があるか
日本は世界的に男女格差が大きいといわれ、世界経済フォーラムの発表している「ジェンダーギャップ指数」では2023年に過去最低となる125位(/146ヵ国)となっています。
理系に女性が少ないのはこのような文化的な背景が原因かもしれません。
そこで、横山先生を中心とした研究プロジェクトでは、「ジェンダー度」「平等度」などの考え方を用いて、定量的に原因の分析を行います。
そこで、まずは「○○は女性に向いている」「○○は女性に向いている」(○○には数学、医学など分野名が入る)というアンケートを通し、各分野のジェンダー度(男性的か女性的か)のイメージを調査しました。
この調査から、「機械工学」などで男性イメージが強く、反対に女性では機械工学は最も向いていないと考えられ、「看護学」などのイメージが強くなっていることが分かります。
次に、個人の男女平等度を測る「SESRA-s」という調査により、個人が持つ男女平等度を簡単に調査します。この調査と先ほどのイメージ調査の相関を示したのが、次のグラフです。
ここで特徴的なのは、平等主義的態度が低い、つまり男女平等の意識が低い人ほど「看護学が女性に向いている」や「機械工学は男性に向いている」といったイメージを強く持っているということです。
少なくとも平等度が何かしら関係していそうなことが分かってきました。
しかし講義の終盤で、実はジェンダー平等と理工系人材の相関については、謎が多く残っていることも紹介されます。
研究により分かってきたこと
講義では、このほかにも様々な調査が紹介されています。
どれも非常に興味深いのでぜひ全て見ていただきたいのですが、ここではもう一つだけ紹介しておきます。
各分野におけるキーワードのジェンダー度の調査が行われ、ここで機械工学において「油まみれ」「溶接」といったキーワードで男性的だという傾向が強く見られました。
しかし、例えば工学部では、実際に油まみれになったり溶接をしたりする機会はめったにありません。
私も工学部に所属していますが、現在は私を含めコンピュータでシミュレーションを回すことが中心というケースも多く、他学科でも男女でできることに違いが生じるという話は一切聞いたことがありません。
最先端の精密工学などは非常に綺麗なクリーンルームで研究などを行うと講義でも紹介されており、現実とは異なるイメージが持たれてしまっていることがわかります。
また、そもそも男性的なイメージが強く持たれた溶接なども性別を問うような作業ではなく、どこか少し古い印象が強く残っているのかもしれません。現在は少しづつ溶接業でも女性が増えているようで、男性的なイメージを払拭しようと「溶接女子会」というサイトもあります。
さらに、従来のモデルを拡張したより定量的な分析も行われました。
モデルの詳細などは講義で説明しているので割愛しますが、成果の一つとして、「就職イメージ」と「数学ステレオタイプ」が大きく影響していることが改めて分かりました。
数学は男性に向いているといったイメージや、数学や物理学の分野で女性が活躍するイメージが薄いことなどにより、数物に男性的イメージがついてしまい、理系の女性が少ない原因となっているのではないかということが考えられます。
これらのイメージやステレオタイプを払拭することは簡単ではないですが、理系の女性を増やすのには必要なアプローチであるといえます。
おわりに
さて、ここまで紹介してきましたが、研究を通して分かったこと・まだ分かっていないことはまだまだあります。
冒頭に紹介したように、東京大学でも特に工学部など理系には女性が少なく、男性イメージを少しでも改善しようと様々な取り組みが行われています。
例えば工学部のYouTubeチャンネルや、「メタバース工学部」というプロジェクトのInstagramでは、理系の女性の活躍をうかがうことができます。
<メタバース工学部 Instagram>
ぜひ、皆さんも講義を見ながら一度、自分もステレオタイプを持ってしまっていないか、考えなおす機会にしてみてください。
東京大学の学部生の男女比は以下の令和5年5月時点のデータを参考にしています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/edu-data/e08_02_01.html
<文/大澤 亮介(東京大学学生サポーター)>
今回紹介した講義:ジェンダー不平等を考える(学術フロンティア講義)第7回 理系になぜ女性が少ないのか 横山広美先生
●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。