こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。
前回、前々回と続いた、今年度退官される先生方の講義紹介も今回が最後です。今回は、人文科学にスポットを当ててみます。人文科学というと、じっくりテクストを読む伝統的な文学部の学問を連想しますが、ここ2、30年でそうした見取り図は大きく変化しました。心理学やデジタルヒストリーなど数理科学の手法を用いて、人文科学をより発展させようという流れが今まさに加速しつつあります。
丹野義彦先生「自分のこころで知る異常心理学」
(2008年度学術俯瞰講義「心に挑む-心理学との出会い、心理学の魅力」より)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_600/
文系学部が縮小されていく昨今でも、根強い人気を保つ心理学の秘密は、文理両分野にまたがる学際的な知見が養われる学問的土壌にあるかもしれません。本講義では、丹野先生が「心理学とは?」というテーマのもとで、心理学に携わるまでどんな学びを経てきたのか、そして臨床心理学の専門家として、心理的危機に対応する心理療法を紹介します。心を操ることが心理学ではなく、心を観察することが心理学の真髄といえます。
橋本良明先生「インターネットとメディア・カニバリズム」
(2010年度学術俯瞰講義「ネットとリアルのあいだ-知のデジタル・シフトとインターネット社会の未来」より)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_806/
「メディア環境の変化と日本の若者のメンタリティー」
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_807/
本講義のテーマである「情報社会心理学」は、心理学の中でも特にメディアに触れる人の心理や行動を分析対象とします。その問題意識も私たちにとって非常に身近であり、「ネットはテレビ利用を侵食するか」「ネットは人を孤独にするか」といった興味深いテーマについて掘り下げていきます。しかし本講義のポイントは、そうした興味深い統計データを読み取る際に、陥りがちな誤解を乗り越えて、課題解決のための有意な情報を引き出す着眼点を養うことにあります。
横山伊徳先生「歴史学を支えるコンピュータ」
(2010年度学術俯瞰講義「ネットとリアルのあいだ-知のデジタル・シフトとインターネット社会の未来」より)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_803/
近年、デジタル技術を人文学に応用する試みが数多く見られます。有名な例として、日本史におけるくずし字をコンピュータ学習によって翻刻できたことは記憶にも新しいでしょう。しかし具体的に、コンピュータが人文学のどういった点に効果的で、それまでのどんな課題を克服してくれるのでしょうか。本講義はこうしたデジタル・ヒューマニティーズが現れる前段階において、歴史研究のインフラとしてコンピュータを導入した試みについて解説します。
沼野充義先生「文学と越境―<あいまい>な日本に境界はあるのか?」
(2013年度朝日講座「境界線をめぐる旅:知の冒険—もっともっと考えたい、世界は謎に満ちている」より)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1234/
大江健三郎は「あいまいな日本の私」でノーベル文学賞を受賞しました。しかし沼野先生は、作家にとって曖昧さというテーマは、現代においては日本に限らず、世界的に見られるテーマだと言います。生まれと使用言語と、文化的背景といった様々な層が折り重なった上で筆をとる現代作家は、かつての「国民文学」の作家とは異なる視点で、自己や世界を見つめ描いています。すると、沼野先生が最後に投げかける「村上春樹がノーベル賞をとったら、どんな日本の私が語られるのか」という問いは、考えてみる価値がある問いとなるでしょう。
このブログでは3回にわたって、退官される先生方の講義をご紹介してきました。UTokyo OCWではたくさんの先生方の講義が公開されています。現在、多くの人々が対面での学びの機会を制限されるという難しい状況にありますが、そうした事態においても学び続けるための一つの教材として、UTokyo OCWをご活用いただければと思います。