6月のおすすめ講義①☔
2020/06/16

こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。

5月25日アメリカ・ミネアポリスでのジョージ・フロイド氏殺害に端を発した反人種差別を掲げる抗議デモは、アメリカ全土だけでなくヨーロッパ各国へと波及しています。これらの運動は、黒人に対する歴史的処遇と現代に残る差別問題を結び付けることで、黒人と「われわれ」について、その生物学上やエスニシティ上の差異を超克しながら、両者を一つの国家へと組織するナショナリズムを志向しているとも考えられます。そこで今回はOCWの講義の中でも、この「われわれ」を結び留めているナショナリズムに関する講義を紹介します。

藤原帰一先生「国民の物語を取り去ると」

(2016年度学術俯瞰講義「現代日本を考える」より第1回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1465/

本講義のテーマは「移民とアメリカ」です。開講年度の2016年は、まさに現大統領のトランプ氏が勝利した大統領選挙運動の只中にありました。藤原先生は、選挙運動でも焦点があてられていた移民問題について、「自由の国」アメリカがいかにして移民におけるエスニシティの問題をナショナリズムの中に包摂させていったのかに着目しながら、その一方で「自由なわれわれ」を標榜するがゆえに肥大化したアメリカの責任感が、再び移民や人種問題を通じてアメリカを分断させようとしている可能性を示唆します。

西川杉子先生「近代ナショナリズムと「歴史」の創造」

(2012年度学術俯瞰講義「「世界史」の世界史」より第12回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1091/

国民国家の形成を志向する近代ナショナリズムは、フランス革命やフィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』のように、ヨーロッパから始まりました。その運動は、旧体制と対置された「われわれ」大衆を表象することで力を得ることになりますが、その装置として一役買ったのが、「歴史」の創造と共有でした。西川先生は、19世紀ヨーロッパにおいて生み出された諸国の歴史に関する絵画や記念碑、そしてメディアを通して、「われわれ」を近代国民国家の枠内に収めておく紐帯として機能した、歴史の役割に注目します。

古田元夫先生「ベトナムは東アジアか東南アジアか?」

(2015年度学術俯瞰講義「「地域」から世界を見ると?」より第2回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1360/

最後は少し射程を広げて、同じナショナリズムでも「民族主義」とも訳出されるエスニシティに根差しながら揺れ動く、ベトナムのナショナリズムの例を見てみましょう。ベトナムは歴史上、中華圏の一部として東アジア世界に位置づけられていましたが、植民地支配と冷戦の影響を経て、現在はASEANの加盟国として東南アジア世界の一部を担っています。古田先生は、この揺れ動くベトナムという国家の自己認識には、フランス植民地時代と冷戦下における社会主義思想によって生み落とされた民族主義的遺産の継承が起因していると指摘します。

現在のアメリカの抗議活動は、以上のような自明化された「われわれ」国民の結びつきが、実はなにに由来し、いかに形成されてきたのかを見直す良い契機となるでしょう。