「まさに偶然の出会い……!」
恋愛ドラマや恋愛小説などでも定番のこのセリフ。
さまざまな可能性の中から「偶然」巡り会ったと考えるからこそ、私たちはその出会いに感動し、幸せを感じるわけです。
でももし、その「偶然性」が存在しなかったとしたら。
つまり、全ての物事が必然的に起こっているとしたら。
少し恐ろしい世界のように思えるかもしれません。
しかし17世紀の哲学者、スピノザは、まさにこの偶然性という概念を否定してしまったのです。
哲学者の鈴木泉先生と一緒に、そんなスピノザの哲学を辿りながら、偶然性の存在しない世界を考える講義を紹介します。
サーフィンをするように、偶然性のない世界を生きていく
突然「偶然性は存在しない」と言われても、全ての事象が必然的である世界を想像するのはなかなか難しいのではないでしょうか。
「それじゃあ、私が今まで自分で選んだと思っていた選択は全て必然だったの!」
と文句も言いたくなりますが、まさしく偶然性がない世界には、選択も自由意志も存在しません。
それどころか、スピノザによれば、その世界に「実体を持った個体は存在しない」のです。つまり、これまで自由意志に従って選択をしてきたと思ってきたあなたも、私も、そこには存在しないのです。
それでは、そこで私たちの存在はどう理解されるのでしょうか。鈴木先生はサーフィンのたとえを用いて、偶然性のない世界における私たちのあり方をあらわします。
サーフィンをしている最中、私たちは波に乗るのに必死でそこに自由意志はありません。また、そこで波にのっているサーファーは、身体とサーフボードがほとんどひとつになったような感覚になると言います。
つまりそこでは、サーファーの実感として、身体とサーフボードと波が一体となっているわけです。それはまさに、実体を持った個体が存在していない状態です。
鈴木先生によれば、スピノザは「サーフィンをするようにこの世界を生きていきなさい」と主張していると言います。
あまりに人間的な偶然性概念を消去するために
今回紹介した講義の副題は、「スピノザと共にあまりに人間的な偶然性概念を消去しよう」というものです。
確かに、私たちは「可能性」や「選択」、「成功・失敗」、「達成」といった、極めて人間らしい概念を正当化するために、偶然性という概念を持ち出していると言えます。
何かを選択したり、成功したり、失敗したり、物事を達成したり、そんなことが一切起こらない世界を想像してみてください。あなたはそんな世界に住んでみたいですか?
絶対にいやだ?それとも、案外悪くないかも?
どちらにせよ、私たちから見えている現実と全く異なるこのような世界は、興味深いものではあるはずです。
そんな世界に少しでも関心を持った方は、ぜひ講義動画をご覧になって、新たな扉を開いてみてください。
今回紹介した講義:〈偶然〉という回路(朝日講座「知の調和―世界をみつめる 未来を創る」2017年度講義)第8回 必然主義の哲学―スピノザと共にあまりに人間的な偶然性概念を消去しよう― 鈴木 泉先生
<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>