【太陽光発電の現状と課題】再生可能エネルギー×地域再生を考える
2023/06/12

最近、電気代やガス代の値上げが話題となっています。

これにはウクライナ情勢による燃料費の高騰など、背景に様々な理由がありますが、日本が化石燃料などを海外からの輸入に頼っているのは誰もが知るところでしょう。

また、SDGsやカーボンニュートラルといった目標が普及し、エネルギーをとりまく事業やビジネスなどが活発になっています。

そんな中、今回紹介するのは櫛屋勝巳先生による『地域再生における再生可能エネルギーの活用』と題された講義です。

UTokyo Online Education 学術俯瞰講義 2017 櫛屋勝巳

この記事では、講義に沿って、地方都市の現状をきっかけに日本の再生可能エネルギー産業とその持続性について考えていきます。

日本の地方都市のいま

講義ではまず日本の地方の課題などについて触れられています。

地方では過疎化や高齢化が進む中、経済活動を行わなければなりません。

地方の経済活動では、地域で生産したものを消費する地産地消をしながら、余ったものや買ってもらえるもの、その地域の強みを反映したものなどを地域の外に輸出し、地域で生産できないものやより優れたものを輸入します。

ここで新潟県にある佐渡島を例に考えてみましょう。

佐渡島は、令和2年で約52,000人(講義スライドは少し古いデータなのでご注意ください)の人口を抱える、日本最大の離島です。

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佐渡が輸出する製品としては、佐渡の特徴であるトキをブランドにした農作物や、観光などが挙げられます。

一方、佐渡が輸入するものには、島内で生産が難しい電化製品や工業製品、日用品や食料品など多くあります。

中でも、支出が大きいのが、石油製品や発電のための燃料などです。

ちょっと不思議!?佐渡島の電力事情

佐渡島の電力事情は少し特徴的です。

これは知られた話ですが、日本の電気の周波数は静岡県の富士川を境に、東日本は50Hz、西日本は60Hzになっています。周波数というのは簡単に言うと、向きと大きさが周期的に変化しながら伝わる電気の、一秒あたりの波の数のことです。

東日本と西日本で周波数が違うのは、明治期に関東ではドイツから50Hzの発電機を、関西ではアメリカから60Hzの発電機を輸入して使っていたためです。

佐渡島は東北電力の管内であるため、佐渡島の電気の周波数は本来、50Hzのはずなのですが、実際は60Hzになっています。

これは明治時代に佐渡の金山が三菱グループに払い下げられた際、三菱グループによって西から60Hz帯の発電設備が導入され、その名残なのだそうです。

というのも、佐渡島では島内で主に火力発電(ディーゼル発電)を行うことにより電力をまかなっています

日本の離島では、海底ケーブルなどにより本土から送電しているため、佐渡島は珍しいケースです。

発電に必要な燃料は佐渡島では生産できないため、燃料を輸入してくる必要があります。発電のためだけでなく、車のガソリンや暖房用の灯油などの燃料も必要となり、結果的にエネルギー関連に多くのお金がかかってしまいます

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再生可能エネルギーを導入する

化石燃料の使用を減らすために期待されるのが再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーにより電力をまかない、また、電気自動車の導入やオール電化なども進めば、理論的にはエネルギーをほぼ自給自足できることになります

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このように地域で発電をする分散小規模発電を行い、それを地産地消する仕組みはマイクログリッドなどとも呼ばれ、佐渡島に限らず、多くの地域で導入されたり導入が検討されたりしています。

エネルギーを地産地消することで、エネルギーを自給でき、送電による電力損失や環境負荷を減らしたり、またエネルギー源が分散されることで災害等の際に大規模停電などを回避できたりといったメリットがあります。

また、再生可能エネルギーを導入することは、よく知られているように低炭素化にも有効です。

そうは言っても、過疎化や高齢化が進む地方でこのような事業を行い、継続していくのは簡単ではありません

しかし、これまでに挙げたようなメリットに加え、発電設備の建設や保守・運営など再生可能エネルギー関連産業はすそ野が広く、新たなビジネスや雇用確保も期待されます。

また、日本の地方での分散型電力システム開発は、まだ再生可能エネルギーの導入が進んでいない東南アジアなどの発展途上国での、分散型電力システム導入事業に生かすことができるかもしれません。

過疎化や高齢化も進む地方都市で、再生可能エネルギー事業により地域のエネルギー、経済を安定することができるのかは、今後大きなポイントの一つとなりそうです。

再生可能エネルギー源の主力、太陽光発電

さて、再生可能エネルギーといって多くの人がまず想像するのは太陽光発電ではないでしょうか。

日本でも導入が盛んで、特に郊外では多くの住宅の屋根に設置されていたり、畑や空き地などに設置されていたりするのを至る所で見ることができます。

太陽光発電は小規模でも設置・建設が可能で、日光が当たればどこでも発電できることから、最もメジャーな再生可能エネルギー源となっています。

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佐渡島では、トキの生息地となっているため風力発電の導入は進んでおらず、また土地が限られているため、太陽光発電が主となっています。

現在、太陽光パネルは主に中国など海外で生産されていますが、その輸送や建設、運営などで先述したような雇用機会や新たなビジネスの創出が期待されます。

太陽光発電もメリットだけじゃない…

そんな太陽光発電ですが、大きな問題もあります。

その一つが使い終えた太陽光パネルの廃棄。

太陽光パネルはリユースやリサイクルが容易でなく、廃棄に高いコストや環境負荷がかかります

太陽光発電システムの寿命は約25年とされています。これまで利用されてきたシステムの廃棄が2019年ごろから進んでおり、今後もさらに増加していきます。

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ヨーロッパなどでは生産段階から廃棄を意識した設計を行う入口管理から、実際に処理を行う出口管理までのシステムが確立されていますが、日本では最近になって廃棄が進んでいることもあり、比較的遅れています。

これからますます太陽光発電システムの導入、廃棄が行われる中、より経済的に、環境負荷を小さく処理まで行うことができるシステムの構築が、日本をはじめ世界で求められています。

このように、太陽光発電を例にしてみると、多くあるメリットの反面、課題もあります。これは太陽光発電に限った話でなく、あらゆる再生可能エネルギー源、ひいてはそれを利用した分散型電源などにも言えることです。

日本全体、そして世界にも目を向けると

講義の終盤では、エネルギーに関する課題や注目すべき動向がいくつか挙げられています。

国内では原子力発電の使用済み燃料や廃炉の処理といった問題があります。

国外に目を向けると再生可能エネルギー事業で発展途上国への進出も進める中国の動向や、男女格差の問題や再生可能エネルギーの普及によりエネルギー事業の変革が求められる中東地域の動向には注目です。

さらに、冒頭にも挙げたようにロシアのウクライナ侵攻に関連する燃料費の高騰なども大きな問題となっています。

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この記事では地方の抱える問題や電力事情、そして再生可能エネルギーや太陽光発電の利用について簡単に紹介しましたが、講義ではより詳しく紹介されています。特に太陽光発電の現状についてはかなり詳しく学ぶことができます。

制度やデータなどに関しては講義が行われた2017年から更新され、現在では異なる点もありますが、課題や展望などは共通している部分が多くあります。我々から切っても切り離せないエネルギーについて、この講義を通して考えてみてはいかがでしょうか。

今回紹介した講義:地球と社会の未来を拓く(学術俯瞰講義)第9回 地域再生における再生可能エネルギーの活用

●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。

<文/大澤 亮介(東京大学オンライン教育支援サポーター)>