【人間の安全保障】ってなんだろう?〜安全保障概念の再構築: 国家から人間へ〜
2022/02/17

「平和とは何ですか?」
と聞かれたら、あなたはどんな風に説明しますか?
戦争がない状態、安心して暮らせる状態、今の日本みたいな状態…
いろいろな答え方があるでしょう。

どんな風に答えて良いのか分からない人もいるかもしれませんね。
そんなあなたは、総合文化研究所の佐藤安信先生と一緒に、「人間の安全保障」について学んでみましょう。

 

想像してください。戦争はしていなくても、常に自分の命が狙われていたら。毎日お腹がすいて、飢えに苦しんでいたら。そのような状態は平和ではない!と述べたのが、ガルトゥングです。
ガルトゥングによると、「本当の平和というのは、その社会に構造的暴力・文化的暴力がない状態」なのです。つまり、単に戦争をしていないことが平和だとは言えない、ということです。

冷戦終結後、各国では内戦が増加し、ジェノサイドなどが発生しました。さらに、甚大な被害をもたらす感染症の拡大や自然災害も起こるようになりました。

従来、このような問題に対応するのは「国家」の役割であり、「国家安全保障」がその議論の俎上でした。しかし、一国の政府だけでは対応できない課題が増加し、国家安全保障の枠組みでは捉えきれないものも多くなってきました。


そんななか、1994年にUNDPで新たに提案されたアプローチが「人間の安全保障」でした。
国家の枠組みではなく、人間を中心に安全保障の概念が再定義されるようになったのです。直接的な暴力をなくすだけでなく、内戦や抑圧といった「恐怖からの自由」や、貧困や飢餓といった「欠乏からの自由」から人々を守ることが必要になってきたのです。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 佐藤 安信

こうした人間の安全保障は、一人一人にとって必要なものですが、特にそれが重要になるのが、「難民」です。

難民とは、紛争や人権侵害などの恐怖から自分の命を守るために、やむを得ず、逃げざるを得ない人びとを指します。
難民条約がある人を難民として認定するためには、「どういう理由で逃げているのか」、そして「どういう恐怖を有しているのか」、そしてその人が「どこにいるのか」、「何を望んでいるのか(いないのか)」という条件があります。

つまり、紛争から逃げてきた、ということだけではなく、難民条約上で難民として認定されなければ、その人は難民とは認められないことになります。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 佐藤 安信

難民は、近年、内戦の増加とともに、増えています。
2019年のデータによると、難民は世界で2,040万人いると言われています。
さらに、国外に逃亡した難民だけでなく、国内で避難を余儀なくされている国内避難民も多くいます。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2020 佐藤 安信

こうした世界各地で発生する難民や国内避難民に対して、人間の安全保障を理念として新しい行為規範を作って行こうという動きがあります。また、近年話題になっているSDGsの核となる概念も人間の安全保障です。

人間ひとり一人に目を向けて、その命や生活を守るためにどんな取り組みがあるのか、あなたも一緒に勉強してみませんか?

 


人間の安全保障について学ぶことは、紛争や自然災害、政治的な迫害によって苦しんでいる人々がいるという事実を知ることから始まります。
難民はその一例です。
少しでも関心を持った人は、ぜひ講義動画をご覧になって、一緒に考えてみましょう。
平和構築についてさらに学びたい方には2007年度開講の学術俯瞰講義もおすすめです。

今回紹介した講義:不安の時代(朝日講座「知の調和―世界をみつめる 未来を創る」2020年度講義)第10回 難民から学ぶ「人間の安全保障」:新型コロナが問いかけるグローバルガバナンスへの展望 佐藤 安信先生

<文 / 島本佳奈(東京大学オンライン教育支援サポーター)>