先日、SDGsについての教育が小中高で必修化されるという報道がありました。
「サステナビリティ」や「持続可能な社会」は、もうすっかり当たり前の概念として受け入れられつつあります。
ですがサステナビリティって、なんだか生活の快適性とトレードオフな感じがしませんか?
持続可能な社会のためには禁欲的で味気ない生活が求められる、みたいな…。
そうだとしたら、これからの未来をちょっぴりつまらないものに感じてしまいますよね。
そこで今回は、サステナビリティと人間の快適性の両立について考える講義をご紹介します。
登壇されているのは、世界的建築家の隈研吾先生と、太陽光発電技術のフロントランナーである杉山正和先生です。
お二人の話を聞き、持続可能な社会について一緒に考えてみませんか。
土地の素材や環境を活かした空間づくり(隈先生)
講義の前半では、隈先生がこれまで取り組んできた世界中の建築物を紹介しています。
その際にキーワードの一つとなるのが「材料」です。
20世紀の建築家は建物の材料にあまり関心を持っていなかったそうですが、対照的に隈先生は地元の材料にこだわった建築をおこなっています。
その一例として紹介されているのが、高知県の「梼原(ゆすはら)木橋ミュージアム」。
立派な建物ですが、地域の町工場が地元の木を加工した小さなユニットを組み合わせることでつくられています。
隈先生によれば、小さなユニットで強い構造物をつくる技術が間伐材の循環を可能にすることで、日本の森林が守られてきたとのこと。
美しい建築の背景には、まさに持続可能な社会を支えてきた伝統的な手法がありました。
さらに建築物が長く使われるためには、人にとって過ごしやすい空間であることが不可欠です。
デザイン性と快適性が両立した建物の一例として、複合交流施設「アオーレ長岡」が紹介されています。
アオーレ長岡の中央には、「土間」をモチーフにした大きな中庭が設置されています。実際に土を固めてつくられているため、夏の暑い日には水を撒いて温度調節することができるとのこと。
また屋上では太陽光パネルによる発電が行われているそうです。
動画では他にも、風の通りや光の差し込みなどその土地の環境を活かした空間づくりが多数紹介されています。
建築家直々にコンセプトやこだわりを聞ける面白い内容になっているので、ぜひ観てみてください。
受け身の技術と感性への訴え(杉山先生)
隈先生に続いて講義をされるのは杉山先生。
まず最初に、次世代のエネルギーとして注目されている太陽光発電について、天候や時間帯に振り回される「とんでもない技術」だとおっしゃいます。
そのうえで、不便さを受け入れて使いこなす「しなやかな受け身の技術」が必要だと指摘します。
「しなやかな受け身の技術」の一例として紹介されているのが水素蓄電技術です。
従来は蓄電池の中に水素を蓄えていたため、たくさんの水素を保存しておくには大きな蓄電池を用意する必要がありました。
しかしこの水素蓄電技術では、蓄電池の外に大量の水素を貯蔵し、必要な分だけ取り出して使うシステムをつくることで、コンパクトな蓄電池でも現実的な利用に資することができるようになっています。
このような技術によって電力の地産地消が可能になり、エネルギーは国の政策から地域の課題になっていくと、杉山先生は話しています。
それでは、安定した電力供給が可能になれば太陽光発電は普及するのでしょうか?
「それだけでは足りない」と杉山先生は言います。
杉山先生が必要だと訴えるのは、人間の感性に根差した「感動・心地よさ」です。
ビルの外壁や休耕地に備え付けられた太陽光パネルを思い出してみてください。
青いギラギラした素材と、縦横に張り巡らされた電極線…。
そのような無機質で興趣の薄いデザインでは積極的に太陽光発電を取り入れてもらえないのではないか、という思いから、杉山先生は建材として人の感性に馴染む太陽光パネルの開発を進めています。
おしゃれで落ち着くし、さらに発電もできる。
そんな太陽光パネルなら、家などを建てるときに取り入れようと思いますよね。
実際に具体的な導入の例も紹介されていますので、ぜひ動画を観て確かめてみてください。
技術とアートの掛け算で開かれるサステナブルで快適な未来
地元の材料を組み合わせる伝統的な手法を取り入れるとともに、風や光などの環境を活用した過ごしやすい空間づくりをおこない、その土地で愛される建物を生み出す隈先生。
自然に左右される不安定さを抱きかかえる「受け身の技術」と、人の感性に根差した「感動・心地よさ」を実現させることで、太陽光発電の普及を目指す杉山先生。
活躍されるフィールドこそ違えど、両先生がお話される内容が交差する場所に、サステナビリティと人間の快適性が両立する社会のありかたを見たような気がしました。
この動画を観て、持続可能な社会について一緒に考えてみませんか?