【「日本の春=一面の桜景色」はウソ?ホント?】桜から考える、社会学の「常識をうまく手放す方法」
2022/03/24

今年も、桜の季節がやってきました。地域によっては、すでに一面の桜景色が見られる場所もあるかもしれません。

「一面の桜景色」
この言葉は、日本の春の景色を表す言葉として、ごく日常的に使われます。……しかし「日本の春といえば、一面の桜景色」この常識はホントでしょうか?

社会学は、このように常識とされていることをうまく手放す学問である、と佐藤先生は言います。皆さんも、桜景色を通して常識のうまい手放し方を学んでみましょう!

(佐藤先生のお話は軽快でわかりやすいので、高校生の皆さんなどにもオススメです!)

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 俊樹

早速ですが、皆さん、日本の桜景色を思い浮かべてみてください。

皆さんが頭に浮かべた桜の多くがソメイヨシノではないかと思います。というのも、現在の日本の桜は7〜8割がソメイヨシノなのです。ソメイヨシノはたくさんの花を一斉に咲かせ、冒頭の「一面の桜景色」を創出します。

このように、現在の日本の桜景色を象徴するソメイヨシノですが、実はそれらが戦後になって接ぎ木で殖やされたものであることは知っていましたか?
「ソメイヨシノによる一面の桜景色」は、案外最近になって人工的に作られたものなのです。

ということで、「日本の桜景色=ソメイヨシノによる一面の桜景色」という常識はウソでした!

と、巷のまとめサイトなどでは締められてしまうかもしれません。

実際に、以上の事実を以て「日本の桜景色=ソメイヨシノによる一面の桜景色」という常識が間違いであると指摘することは、多くの人がしてきたことでした。

しかし、佐藤先生は、単純に常識を否定するのではなく、「常識をうまく手放す」ことによって一歩踏み込んだ考察を行います。

「常識をうまく手放す」とは、常識から半分離れること

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 俊樹

常識から完全に離れてしまえば「常識の否定」ですが、半分離れるとは?それは「常識の否定」すらも否定することです。

「否定の否定は肯定では?」それも一理ある考え方です。しかし、それでは退屈だと佐藤先生は言います。

「常識の否定」の否定。それは、常識は正しい部分もあるし、そうでない部分もあると考えることです。

これを踏まえて、桜の例に戻りましょう。
ここでの常識は「日本の桜景色=ソメイヨシノによる一面の桜景色」でした。この常識から半分離れた佐藤先生は、日本には複数の桜の春があるという仮説を立てます。そして、江戸時代の浮世絵である安藤広重の『江戸名所百景』に行き着くのです。

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 俊樹

上の2枚の絵画は、それぞれ春の桜を描いたものです。

左の絵画に見られるように、江戸時代には「桜=紅と緑」や「桜=白と緑と茶」という色彩感覚がありました。そのような色彩を持つのはヤマザクラなど昔から日本に咲く桜であり、江戸時代には「日本の桜景色=ソメイヨシノによる一面の桜景色」という常識はなかったと言えます。

一方で、右の絵画のように江戸時代においても「一面の桜景色」は描かれていました。つまり、戦後になってソメイヨシノの植栽とともに人工的に創出されたと思われた「日本の桜景色=一面の桜景色」という常識は、江戸時代にも存在していたのです。裏を返せば、そのような日本人の心に常識として根ざしていた景色を、後からソメイヨシノが実現したと言えます。だからこそ、ソメイヨシノは人の手によって大量に植栽され、日本の桜の大部分を占めるようになったとも考えられるかもしれません。

UTokyo Online Education 社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)Copyright 2010, 佐藤 俊樹

いかがでしたでしょうか?

「常識の否定の否定=肯定」
これは、誰にでもできることですが、堂々巡りで進歩がありません。「常識をうまく手放す」社会学的な見方を身につけることで、世の中を一歩踏み込んで考えられるのではないでしょうか。

今春、お花見に行く前に、ぜひこの講義動画を視聴してみてください。桜がいつもと違って見えてくるかもしれません。

今回紹介した講義:社会学ワンダーランド(学術俯瞰講義)第3回桜見る人、人見る桜 ー神は細部に宿るのです 佐藤俊樹

<文/安達千織(東京大学オンライン教育支援サポーター)