9月のおすすめ講義①🍇
2020/09/25

こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。

多くの大学では、すでに秋学期が始まっています。東京大学でも、前期課程2年生が進学振り分けを経て、今秋からオンラインを原則としながらも少しずつ自分の学部課程の講義を通して、より専門的な学知を深める入口に立っています。もちろん、誰にとっても新しい学びの可能性は等しく開かれていますが、中でも我々の探求心を刺激するのは、既存の学問の間で化学反応を起こし、そこから生まれる新たな気づきにあふれた研究です。そこで今回は、私たちの生活にも馴染みあるテーマが扱われることの多い「経済学」に関連した講義の中から、従来とは異なる切り口から学ぶことのできる講義を「ななめから見る経済学」と題して紹介します。

八代尚宏先生「法と経済の接点―市場の役割はなぜ重要か」

(2010年度開講学術俯瞰講義「法と現代社会―見える法と見えざる法」より第8回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_791/

法と経済の関係は、実はそれほど新しくはありません。不正を排除し誰しもが合理的だと納得する社会制度を構築する法制度と、人間の合理性を前提しながら、人々の間の経済の在り方を分析・予想する経済学とが邂逅し、その制度設計のために協働するようになるのは必然だったとも考えられます。また、これら2つの関係はアフターコロナにおいて、人々の感染リスクを合理的にコントロールするための社会の作り方にヒントを与えてくれるかもしれません。

植田一博先生「情報と経済(1)」

(2012年度開講学術俯瞰講義「学際情報学―情報と諸学問の融合」より第5回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_967/

情報は経済学において、人間が行動を選択する際の重要な材料です。一方で、すべての人間が自分や他人の持っているすべての情報を正しく処理できるわけではありません。そうした人間の非合理性に直面した経済学は、ノーベル経済学賞のテーマともなった「行動経済学」という新領域を創出しましたが、植田先生はさらに一歩進んで、人間が持つ情報のつながり、いわばネットワークがもたらす人間の行動選択に焦点を当てています。

武田晴人先生「経済学のふしあわせな生い立ち」

(2012年度開講朝日講座知と幸福「知の冒険―もっともっと考えたい、世界は謎に満ちている」より第7回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1185/

私たちは朝起きて、ふと昨日積み残した仕事を思い出し、行きたくないなと思いながらも、結局は仕事へと出かけてしまうのはなぜでしょうか。もちろん、金銭面で仕事をしないと生活できないという理由も考えられますが、私たちはどこかで一生懸命仕事をした結果として到来する経済成長が、「幸福」をもたらしてくれると信じているからではないでしょうか。しかしながら現代日本は、高度経済成長前よりも格段に豊かに便利にもなったにも関わらず、国民の生活満足度調査の数字は変化していません。また、経済成長の先に豊かなくらしが待っていると夢想していたものの、高度に効率化された社会で待っていたのはむしろ増加傾向にある労働でした。では私たちは、さらに言えば私たちのくらしを取り上げる経済学は、どこでこの「経済成長」と「幸福」のボタンを掛け違えてしまったのでしょうか。

人間がもつ背景や考え方は十人十色であり、既存の学問の枠組みに対してそれを問い直そうとする姿勢は、人類史を新たに一歩進めるためには不可欠な原動力です。それまでなかった視点が充填されることで、新たなイノベーションが創出される点に、今回紹介したような学際的な研究のおもしろさがあります。