10月のおすすめ講義①🍁

こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。

今年も10月初旬より、ノーベル賞受賞者の発表が連日報じられました。ノーベル賞というと、それが突然現れた世紀の大発見のように思われることもありますが、その内実は脈々と引き継がれる研究が結実した一つの側面に過ぎません。そこで、OCWでは全6回にわたって、今年のノーベル賞各賞や、受賞した研究と関連した分野の研究について、東大で行われた講義をもとにご紹介します。

そうしたシリーズの第1回目となる今回は、ノーベル生理学医学賞に関連して「最新医療の導入」についての講義をご紹介します。今年の生理学医学賞の受賞理由は、C型肝炎ウィルスの発見でした。日本では、1964年から日本で販売された血液製剤を感染源として、C型肝炎患者が増加しましたが、1986年に治療法が発見され、1992年に日本でも一般臨床に使用されるようになりました。しかし、C型肝炎治療はそこがスタート地点であり、2017年に至るまで高いウィルス排除率と副作用の抑制を両立させるために、足掛け25年にわたる長い試行錯誤が繰り返されてきました。このように、ある時点での「新しい医療」は常に変化し、その度に学術的にも政策的にも社会を巻き込んで対応されてきました。そこで今回は、OCWに収録されている2019年度開講学術俯瞰講義「新しい医療が社会に届くまで~データサイエンスが支える健康社会~」から「最新医療の導入」に関連する講義についてご紹介します。

大庭幸治先生「新しい医療の開発と関連する様々な学問」

(2019年度開講学術俯瞰講義「新しい医療が社会に届くまで~データサイエンスが支える健康社会~」より第1回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1769/

当年度の学術俯瞰講ほど、今回の医学的新発見と現実の医療制度関係にフォーカスした一連の講義はありません。本来であれば、全12回それぞれについて紹介を付したいところですが、まずは本講義の見取り図を提示する大庭先生のイントロダクションをご紹介しましょう。最新医療の導入を考える際に不可欠な視点は、その過程には医学以外の様々な学問が関連しているということです。新薬がピンポイントに治療効果を発揮するかを分析する生物統計学や、臨床試験の妥当性や精度を高めるための臨床研究、一般使用に堪えうると確認されたあとで承認をする政策判断に欠かせない規制科学などのように、様々な学問の成果の先に、私たちが享受できる最新医療があります。

小出大介先生「医療ビッグデータを用いた医薬品等の安全性評価(薬剤疫学)について」

(2019年度開講学術俯瞰講義「新しい医療が社会に届くまで~データサイエンスが支える健康社会~」より第8回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1776/

薬の効果を評価する手法の一つとして、本講義が取り上げるのが薬剤疫学です。抽出された人の集団に対してある薬の効果・影響を測定する薬剤疫学は、薬の安全性を確認するために、また薬害問題に対処するために発展してきました。今回のノーベル賞で扱われたC型肝炎も、日本では2002年に、薬害肝炎訴訟として問題が全国的に提起されましたが、この訴訟は日本の薬剤疫学を次のステージに進める契機でもありました。2010年に提出された薬害再発防止の提言では、薬の販売後の効果を調査するために、従来の申告調査に加えて、医療データベースの活用を推し進めることが挙げられました。こうした動きは現在のデータサイエンスに支えられる新しい医療のあり方の萌芽とも言えるでしょう。

高山智子先生「新しい医療や情報をどう患者や市民に届けるか」

(2019年度開講学術俯瞰講義「新しい医療が社会に届くまで~データサイエンスが支える健康社会~」より第12回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1780/

ここまでは治療そのものの開発や評価に関する研究をご紹介してきましたが、最後はそうした最新医療の知見をいかに多く人々に正しく届けるかという、医療体制の構築ついての研究について見ていきましょう。本講義では、日本人の死因第1位である「がん」の治療情報に焦点を当てています。がんをめぐる医療情報は、2つの課題に直面しています。1つはもちろん、必要な最新の情報にたどり着けない患者や、その支援者に対してどうやって情報を届けるかという問題ですが、もう1つは、「先進医療」が進められる現代において膨張し続ける情報の中から、エビデンスやガイドラインに基づいた情報を精査するという問題です。新しい医療の便益を最大化させるためにも、こうした制度の構築は医学研究と足並みを揃えて前進していく必要があります。

医学の発展は、私たち人間の生命や暮らしを格段に向上させる一方で、その身体に直接的な影響を及ぼすために、少しの失敗も社会全体にとって多大な損失をもたらすことがあります。最新医療が基礎研究からはじまり、実際に一般に使用されるまでに10年以上、時として数十年を要するのは、医学以外の多様な研究分野が、互いの成果を評価しあうことで、こうしたリスクを最小化しようとしているからに他なりません。