こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。
来月下旬から、多くの大学で秋学期がスタートします。都市圏の大学では、原則リモートによる講義を続けながら、少しずつ日常へ回帰していこうと模索が続けられています。一方そうした模索の過程で、先月までの大学における活動の様々なデータがまとめられました。中でも、九州大学で行われた調査では、リモート講義で続けられた先学期において、半数近くの学生が心身の不調を感じ取っていることを明らかにしました(毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200823/k00/00m/040/107000c ※記事掲載期間2020年8月23日~2020年9月23日)。こうした環境の変化に対して、2000年前後から欧米の大学では「マインドフルネス」という対処療法が共有されています。マインドフルネスの根底は、心理学の知見を用いて、自分の心のメカニズムを客観的に把握し、適切な対処法を選択することにあります。そこで今回は、自分を知るための心理学講義として、2008年度開講の学術俯瞰講義「心に挑む―心理学との出会い、心理学の魅力」から3つの講義をご紹介します。
能智正博先生「ライフストーリーを聴き取る」
(2008年度開講学術俯瞰講義「心に挑む―心理学との出会い、心理学の魅力」より第4回)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_603/
ライフストーリーとは、本人が障害など自らに与えられた境遇に対して、自分がそれを如何に受容しながら生きているかを言語化する試みです。本講義では脳外傷者の語りを事例として挙げていますが、ライフストーリーの分析は障害に限らず、生活の中でうまくいかないこと、また自分ではどうにもならない境遇を消化したり、またそれを理解し合うために共有したりする方法を提示してくれます。
横澤一彦先生「注意の認知心理学」
(2008年度開講学術俯瞰講義「心に挑む―心理学との出会い、心理学の魅力」より第8回)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_607/
横澤先生曰く、人間の視覚処理能力は高度かつ高速なものでありながら、一方で低速で頼りない能力でもあるという、矛盾した性質を持っています。これは同時に、私たちが「注意する」という日常の活動の脆さも示唆しています。本講義では、人間の注意力と呼ぶべき性質の可能性と限界が、様々な先行研究の実験を通して紹介されていきます。普段の生活でも、うっかりミスが多いと感じたとき、注意して作業することも大切ですが、その「注意力」の性質を知れば、さらなるパフォーマンスの向上にもつながるでしょう。
遠藤利彦先生「感情の心理学」
(2008年度開講学術俯瞰講義「心に挑む―心理学との出会い、心理学の魅力」より第12回)
https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_611/
古くから西洋由来の哲学や医学の文脈において、感情は理性(知)によってコントロールされるべきであり、感情の赴くままに行動することは控えるべきだとされてきました。もちろん、理性こそが人間生活の発展に大きく寄与してきたものであることは否定できませんが、感情が理性に対して劣っているとみなすことについて、遠藤先生は警鐘を鳴らします。感情は理性とコラボレートしていく過程で、後者を刺激し、また人々の間の関係を調整する原動力となっていることを忘れるべきではありません。
今回は、日常から大きく変化した環境の中で自分のペースを取り戻すため、また心のメンテナンスをするための一つの材料として、自分を知るための心理学講義をご紹介しました。しかし同時に、心身の不調の原因や解決をすべて自分に背負わせないことも重要なポイントです。多くの大学でも、所属する人々に対して積極的にメンタルケアを促し、そのための窓口を設けています。人と人のつながりが希薄になって気分が落ち込む悪循環を断ち切るためにも、自分の心に敏感になって、助けを求められる場所を知っておきましょう。