苦悩の「つながり」から自由になる【認知行動療法を参考として】
2022/09/21

なんで自分はこうなのだろうか‥‥‥?

こうなってしまうのは全部自分のせいなんじゃないか‥‥‥?

このように考えてしまったことはありませんか。

自分の心に問題や悩みを抱えた時、私たちはひたすら頭を抱えて、自分の中に苦しさの原因があると思ってしまいがちです。

そうして、「自分が全て悪い」、「周囲に申し訳ない」、といったふうに全ての責任を自分で負おうとしてしまいます。

人間の苦悩とは、個人の中だけにあり、その人が全ての責任を負うものでしょうか。

決してそうではないと、講師は言います。

人間の心に生じる問題は、当事者である人間と、周辺の他者との交流や会話といった、「環境」との相互作用によって生み出されます。

それが悪循環に陥ることで、人は多くの苦悩を抱えてしまいます。

そして、そこから抜け出すための鍵の一つが、認知行動療法です。

臨床心理学を専門とされる下山先生と一緒に、苦悩の「つながり」とは何か、その「つながり」から抜け出すにはどうすれば良いのか、一緒に考えてみませんか。

きっと、この複雑な社会で、自分や周囲の心に生じる問題や苦悩とどう向き合っていけば良いのか、そのヒントが得られるはずです。

1.問題の背景に潜む、悪循環という「つながり」

まず、問題の背景に潜む「つながり」とはどういうものか知らないと、そこから自由になることはできません。

不登校状態にある”心理君”を例にとって考えてみます。

すると、下図のような悪循環、つまり、苦悩の「つながり」が潜んでいることが分かります。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2018 下山 晴彦

このように、問題の背景に潜む苦悩の「つながり」を理解するためには、

不登校状態という「問題」だけに着目するのではなく、その背景にある様々な基本要素と、それら同士の「つながり」を丁寧に紐解いていく必要があります。

問題行動は、あくまで悪循環の一部でしかありません。

学校に行かないという心理君の問題行動の背景には、

実は、親からの刺激、学校で失敗しないか、いじめられないかという本人の認知・考え方、怖いという感情、ドキドキして震えるという生理的反応、そして、学校にいけないという行動があるのです。

2.ミクロな視点とマクロな視点で問題を考えていく

問題行動というのは、あくまで苦悩の「つながり」の一部であり、その背景には様々な要因と要因同士の関係が潜んでいるということを述べてきました。

もう一つ、問題の成り立ちを探るために重要なこととして、個人の問題行動のみにフォーカスするミクロな視点と、

環境も含め問題の全体を見るマクロな視点を併せて考えていく必要があると講師は言います。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2018 下山 晴彦

問題の裏にある「つながり」は決して甘いものではありません。

実は、この世に生まれた時から既に色々な問題が起きていることも多く、それらの積み重ねが、結果として今の問題につながっていることが往々にしてあります。

生まれた時から色々な問題を抱えている子に限って、幼稚園や小学校に行った時に、いじめられたり、勉学でつまずいたりといった問題が発生しやすいと講師は述べます。

多くの場合、色々な失敗をしても、周りが上手くサポートしてくれたり、あるいは自分が上手く対処して、生きていくことができます。

しかし、周りが上手にサポートしてくれないと、どんどんつまずいていってしまいます。

これは、周囲の無理解、無視、不適切な介入も含みます。

本人や周囲が上手に対応できないことで、これらが発展要因となり、問題がさらに大きくなったり、次の問題に発展していくことがあります。

心理君の例に戻り、マクロな視点を加えて、その「つながり」を見ていきます。

心理君の歴史をよくよく見ていくと、

心理君は実は、小さいころから他者の意図や会話の理解などが苦手であり、周囲との集団行動ができない、いわゆるASD(自閉症スペクトラム障害)でした。

また、本人だけでなく、母親や学校側の要因も関係していることが分かってきました。

マクロな視点で見た、心理君の悪循環を図式化すると下図のようになりました。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2018 下山 晴彦

このように、問題行動の裏に、実は本人だけでなく、家族や学校といった社会的な要因が複雑に絡み合っていたということは決して稀ではないと、講師は述べます。

3.認知行動療法による介入

認知行動療法(CBT)は、このような苦悩の「つながり」から抜け出す方法の一つとして、臨床をはじめとして実践されている介入方法です。


CBTは、悪循環を分析・解明・改善するツールの宝庫であるとも講師は言います。

CBTとはどのようなものでしょうか。

問題の背景にある「つながり」には、認知・感情・生理・行動がありますが、

これらの中でも、特に認知の影響は強く、また感情や生理と比較して、変えていくことが意外と易しいとされています。


だからこそ、考え方を変えていくことで、その先の行動を変え、上手に環境に適応できるようにしようというものが認知行動療法の考え方になります。

UTokyo Online Education 東京大学朝日講座 2018 下山 晴彦

そしてもう一つ、介入において重要なポイントになってくるのは、環境にも協力をしてもらうことです。

先ほどから述べているように、問題解決(改善)のためには、その人の行動を変えるだけでは不十分です。

周りの環境との悪循環の相互作用が、特に子供の場合は必ずあるため、そこを見つけて、外堀から埋めていくことが重要になってきます。

だからこそ、家族や学校といった環境の協力が必要となるのです。

実際に講師は、環境の協力を得るために以下のようなことを行っていると述べています。

・ 学校でいじめがあったり、学級崩壊がある場合は、出来る限り学校に行って、先生と話し合いをする

・ 大人であっても、パートナーの協力が必要になることがしばしばあるため、場合によっては夫婦で来てもらう

・ 社会人の職場復帰であれば、職場の上司や人事の方に来てもらったり連絡を取るようにする

4.終わりに

人間の心に生じる問題の背景には、様々な要因と、その要因同士の複雑な「つながり」が潜んでいます。

このような「つながり」が悪循環に陥ることで、人は多くの苦悩を抱え、時にその一部が問題行動として表れます。

この苦悩の「つながり」から抜け出すためには、

その人の考え方を変えることで、その先の行動を変えて、上手に環境に適応できるようにしようという認知行動療法といった介入方法や

問題の背景にある、周りの環境との悪循環の相互作用を見つけ、環境にも協力をしてもらう、

といったことが重要となります。

臨床心理学を専門とされる下山先生と一緒に、苦悩の「つながり」とは何か、その「つながり」から抜け出すにはどうすれば良いのか、一緒に考えてみませんか。

きっと、この複雑な社会で、自分や周囲の心に生じる問題や苦悩とどう向き合っていけば良いのか、そのヒントが得られるはずです。

★おまけとして‥‥‥

不登校状態となっていた心理君

結局どのような介入がされたのでしょうか

気になる方も是非、こちらの講義を見てみてください。

今回紹介した講義:「つながり」から読み解く人と世界(朝日講座「知の調和―世界をみつめる 未来を創る」2019年度講義)第3回 苦悩の「つながり」から自由になる 下山 晴彦先生

文/東京大学オンライン教育支援サポーター