言語習得の秘密に迫る!【私たちはどうして言葉が話せるようになるのか】
2022/07/06

私たちは皆、当然のように言葉を話します。

しかし、どうして言葉が話せるようになるのか、不思議に思ったことはありませんか?

特に、悪戦苦闘しながら外国語などを勉強しているときなどには、どうして右も左も分からない幼児期に言語を習得することができたのか、全く理解できない気持ちになります。

幼児期にどのように言語を習得するかというのは、人間の思考の過程を探るうえでも、非常に重要なトピックです。

しかし、意思伝達が十分でない幼児を研究対象としなければならないということもあり、やはりその調査は一筋縄ではいきません。今回は、人間の言語習得のあり方を探るためにはどのようなやり方を取ればいいのか、過去に実際に行われた実験とその成果について説明する講義動画を紹介します。

赤ちゃんの語彙が20ヶ月を境に急激に増加するのはなぜ?

今回講義を行っていただくのは、教育学研究科の針生悦子先生です。

まず、人が言葉を覚える際には、いくつかの段階があります。講義内では、そのうちの「1、発話の聴き取り」、「2、語彙の獲得」、「3、文法の理解」の3つの段階に注目します。

UTokyo Online Education  ことばの発達心理学 Copyright 2008, 針生悦子

講義では、この3つの全ての段階において、どのように達成されるのかの調査とその結果について紹介されているのですが、この記事では「2、語彙の獲得」にのみ触れます。

(他の項目が気になる方は、ぜひ講義動画を視聴してみてくださいね!)

語彙の獲得ですが、赤ちゃんは大体10ヶ月ごろから言葉を覚え始めるといいます。

しかしそこから8ヶ月間ほどは、なかなか語彙が増えていきません。

(もちろん個人差はありますが)18ヶ月時点での語彙数は、20〜30程度です。

急激に言葉を覚えはじめるのは、20ヶ月ごろからになります。

そしてそれ以後は、語彙はそのまま増え続け、28ヶ月のころにはなんと400を超えます。

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一体どうして、このような「語彙爆発」と言えるような現象が起こるのでしょうか?

逆に言えば、なぜそれまではなかなか語彙の獲得が進まないのでしょうか?そこには、私たちが当たり前に認識している「言葉」というものの枠組み自体を捉える作業が関わってきます。

色々なものを意味する「ニャンニャン」

講義では、岡本(1982)が、自分の娘を対象にして行った以下の研究が紹介されます。

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この研究は、娘が「ニャンニャン」という言葉を何に対して用いているかを調査したものです。

言葉というものに慣れ親しんだ私たちは、言葉と対象が一対一で対応しているということを、当然のものとして理解しています。(例えば、「ニャンニャン」であれば、おそらくそれは「猫」と一対一対応しているでしょう)

しかし、語彙を獲得している途中の幼児は、そのような規則を理解していません。

実際、ここで調査の対象となった娘は、「ニャンニャン」という言葉を、「白い壁」や「ライオン」など、いくつもの対象を指すために使用しているのです。

「ウサギ」がウサギを意味するのは当たり前ではない

次は、親が子供の赤ちゃんに対し、「ウサギ」と呼びかけながら、ウサギを指差す場面を想像してみてください。

私たちは、当然この動物の種類が「ウサギ」であり、赤ちゃんにもそれを伝えていると理解します。

しかし、実際は、「ウサギ」が指すものの選択肢として、「目の前にいる動物の種類」以外にも、「長い耳」や「ふわふわしている」といった特徴、ウサギが食べている「にんじん」、または「このウサギの名前」など、さまざまなものがあるのです。

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「ウサギ」という言葉が動物の種類であると理解するためには、「言葉は対象の属性でなく対象それ自体を意味しうる」ということや「言葉は個体ではなくカテゴリを意味しうる」という、言葉のルールを知っておく必要があります。

先ほど示した岡本の研究で、娘が「ニャンニャン」という言葉を多数の対象に用いていたのも、「基本的に言葉はある特定のものを意味しうる」というルールを理解できていなかったからです。

言葉のルールを身につけていき、意味を推論できるようになってようやく、幼児は言葉を覚えられるようになります。

市川先生によれば、それがまさしく先ほど紹介した「語彙爆発」が起こる理由です。

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言語の習得には「意味推論」が重要な役割を果たしているのです。

「言葉」について考える

今回紹介したのは、講義動画のほんの一部です。講義ではそのほか、言葉を話せない赤ちゃんが単語を聞き取れているか調べる調査や、動詞という概念や助詞の使われ方についての理解を探る方法についても紹介されています。

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(不思議な質問ですね……)

言語習得の探究は、人間の思考の根幹に迫る行為でもあり、それ自体で私たちをワクワクさせてくれるものです。

しかし、そんな壮大な話は抜きにしても、専門外の人からすると奇抜で独創的な調査によって、幼児がどのように言葉を覚えていくか明らかになっていく様子は、きっと楽しいものだと思います。

みなさんもぜひ講義動画を視聴して、自分が日頃意識せずに使っている言葉について、改めて考えてみてください。

今回紹介した講義:心に挑む-心理学との出会い、心理学の魅力(学術俯瞰講義)第10回 ことばの発達心理学 針生 悦子 先生

<文/竹村直也(東京大学オンライン教育支援サポーター)>