6月のおすすめ講義②🐌
2020/06/30

こんにちは、UTokyoOCWスタッフです。

先日23日に、スパコン「富岳」が計算性能で8年ぶりに世界一に返り咲きました。スパコンの計算性能は、今や人工知能(以下AI)技術の主流であるディープラーニングを進めていく上で、不可欠なインフラとなっています。そこで今回は、現在私たちがおかれているAI研究の文脈とこれからを整理するために、第3次AIブームの直後である2016年に本学で開講された学術俯瞰講義シリーズの一つ、「ビッグデータ時代の人工知能学と情報社会のあり方」(https://ocw.u-tokyo.ac.jp/course_11381/)から3人の先生方の講義を紹介します。

松尾豊先生「人工知能の未解決問題とディープラーニング」
(2016年度学術俯瞰講義「ビッグデータ時代の人工知能学と情報社会のあり方」より第9回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1462/

2013年から急速に発展を遂げた現在のAI研究は、第3次ブームにあたります。松尾先生は、人工知能を現在の情報技術で「ぎりぎりできること」と定義した上で、私たちが「人間のような知能」としてAIに何を期待して生きたのかという観点から、3つのAIブームを概観します。簡潔に言えば、期待されてきたAIとは、頭の回転の速さ(第1次ブーム)から博識さ(第2次ブーム)を経て、今の学習するシステム(第3次ブーム)へと変化してきました。

中島秀之先生「人工知能とは何か—過去、現在、未来—」
(2016年度学術俯瞰講義「ビッグデータ時代の人工知能学と情報社会のあり方」より第1回、第2回)

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1454/

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1455/

松尾先生の図式に従ったとき、第2次から第3次ブームにかけての転換点として、情報を記号として処理する(表現し推論する)問題が挙げられました。中島先生は、この記号処理技術にこそ、人間のような「知能」の実現が期待されている一方で、その技術的問題が根深く残っていることを指摘します。私たちが「あること」を考えるとき、それは「あること」自体でなく、その環境の中にある「あること」を考えている――これが人工知能が克服すべき問題です。

須藤修先生「ビッグデータ・AI時代の社会情報学」
(2016年度学術俯瞰講義「ビッグデータ時代の人工知能学と情報社会のあり方」より第7回、第8回

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1460/

https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_1461/

最後は、AI研究を自治体と連携しながら政策レベルで進めていく一つの例を紹介します。AI技術の応用の一例に、生体情報から対象の生活習慣や疾病予測を行うセンサーネットワーク医療があります。須藤先生は、千葉市と連携して高齢者における疾病ネットワークを作成し、そこから高齢者医療の現状を分析します。また、AIによってどんな病気にかかりやすいかが予測されることは、これまでの保険制度を見直す一つの機会にもなっていくでしょう。

松尾先生の講義でも言及されているように、私たちは科学技術の先端性をAIというマジックワードで覆ってしまうことがあります。勿論、今ある技術を何に応用できるのかという視点は重要ですが、イノベーションを生む原動力として、その技術に内在する根本的な問題に、苦しくも向き合うことは忘れてはならないでしょう。